国土交通省が、JRのローカル線だけでなく、「幹線」についても鉄道網の見直しを検討する方針です。
鉄道の利用者が減少する中、今後の鉄道ネットワークをどのように維持していくのか。今回の動きは、これまで利用者の少ない路線を中心に進められてきた議論が、鉄道網全体のあり方へと広がる可能性があります。
そもそも、現在のJR線で使われている「幹線」と「地方交通線」という区分は、どのような経緯で設けられたのでしょうか。
NHK ONE
「幹線」と「地方交通線」は国鉄再建法に基づく区分
現在のJR線における幹線系線区と地方交通線の区分を考えるうえで、重要なのが1980年に制定された「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」、いわゆる国鉄再建法です。
同法は1980年12月27日に公布・施行されました。そして、地方交通線の選定基準などを具体的に定めた施行令は、1981年3月11日に公布・施行されています。
国鉄再建法第8条では、幹線鉄道網を形成する営業線として政令で定める基準に該当する路線を除き、一定の基準に該当する営業線を「地方交通線」として選定する仕組みが定められました。
つまり、制度上は「幹線系線区」と「地方交通線」という区分です。
一方、一般的に使われる「ローカル線」という言葉は、必ずしも地方交通線と同じ意味ではありません。幹線に分類されていても、利用者が少ない区間や、地域輸送を中心に担う路線はあります。
また、地方交通線のうち、鉄道に代えてバス輸送を行うことが適当とされた路線は「特定地方交通線」として選定され、転換が進められました。
国鉄再建法は、当時の国鉄の経営再建を目的とした法律だったのです。
幹線の選定基準は
国鉄再建法を実施するための政令である「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法施行令(国鉄再建法施行令)では、「幹線」の基準として次の基準が示されています。なお、輸送実績は1977年~1979年の値を使用することになっています。
法令については、国立公文書館のホームページから見ることが出来ます。
- 1980年3月31日時点で人口10万人以上の都市を相互に連絡し、旅客営業キロが30 kmを超え、全ての隣接駅間で旅客輸送密度が4,000人以上である区間を有する線
- 函館本線・千歳線・室蘭本線・東北本線・常磐線・奥羽本線・羽越本線・磐越西線・仙石線・仙山線・上越線・信越本線・高崎線・両毛線・総武本線・内房線・東海道本線・南武線・武蔵野線・横浜線・相模線・御殿場線・中央本線・篠ノ井線・北陸本線・関西本線・阪和線・山陽本線・伯備線・山陰本線・予讃本線(予讃線)・高徳本線(高徳線)・鹿児島本線・長崎本線・日豊本線
- 路線のうちに、1.の条件にあてはまる営業線と主要都市を連絡し、かつ旅客営業キロが30 kmを超え、全ての隣接駅間で旅客輸送密度が4,000人以上である区間を有する線
- 根室本線・水戸線・湖西線・奈良線・紀勢本線・福知山線・呉線・土讃本線(土讃線)・佐世保線
- 貨物輸送密度が4,000 t以上である線
- 石勝線・白新線・山手線・青梅線・宇野線・宇部線・美祢線
- 輸送密度8,000人以上の線
- 赤羽線・五日市線・鶴見線・根岸線・横須賀線・川越線・外房線・成田線・伊東線・草津線・大阪環状線・桜島線・片町線・篠栗線・筑肥線
当時の基準と現在の輸送実態には違いも
国鉄再建法に基づく幹線系線区の選定基準の一つに、「全ての隣接駅間で旅客輸送密度が4,000人以上」という条件があります。
つまり、路線全体の平均的な利用者数だけでなく、隣接する駅と駅の間の輸送量も基準になっていました。
しかし、基準が設けられた1980年代初頭から、すでに45年が経過しています。人口減少や自動車の普及、通勤・通学の状況の変化などにより、鉄道の利用実態も変わってきました。
当時はこの基準を満たしていた路線であっても、現在では一部の区間で輸送密度が4,000人を下回っている場合があります。
もちろん、輸送密度だけで幹線としての役割を判断できるわけではありません。しかし、当時の基準で分類された路線を、現在の鉄道ネットワークのあり方を考える際にも、そのまま評価の前提としてよいのでしょうか。
また、山口県の宇部線・美祢線では幹線の基準に使用された貨物輸送自体が無くなっています。
alt="美祢線「岡見貨物」(美祢駅)" class="wp-image-17723"/>今回の国土交通省の検討では、幹線・地方交通線という区分の成り立ちだけでなく、現在の輸送実態や路線が担う役割をどのように評価するのかにも注目したいところです。
幹線の役割は利用者数や収支だけでは判断できない
今回の検討で注目したいのは、幹線を含めて鉄道ネットワークのあり方を考える点です。
特急列車や貨物列車が走る路線は、沿線住民の日常的な移動だけでなく、都市間輸送や物流を担っています。また、災害で別の路線が不通になった際には、迂回ルートとして機能する可能性もあります。
こうした役割は、沿線の利用者数や路線単独の収支だけでは十分に評価できません。
一方、幹線であっても、利用者の減少や設備の老朽化などによって維持が難しくなることは考えられます。地方交通線だけでなく、幹線も含めて維持のあり方を検討する必要性が高まっているのでしょう。
また、鉄道ネットワーク全体を維持するためには、JR各社の経営努力だけでなく、国や自治体がどのような役割を担うのかという問題もあります。
今回の見直しで何が変わるのか
今回の国土交通省の方針が、国鉄再建法に基づく幹線系線区・地方交通線の区分そのものを見直すものなのか、それとも現在の鉄道ネットワークにおける幹線の維持方策を検討するものなのかは、今後の資料や議論を確認する必要があります。
仮に区分を見直すとしても、運賃制度との関係や、JR各社の収支、地域の交通体系など、検討すべき課題は少なくありません。
また、すべての路線を鉄道のまま維持することが最適とは限らず、地域によってはバスなどへの転換を含めた検討が必要になる場合もあります。
大切なのは、1980年代に設けられた区分だけを前提にするのではなく、現在の利用状況や地域の実情、鉄道ネットワーク全体における役割を踏まえて判断することではないでしょうか。
国鉄再建法の制定から45年。鉄道を取り巻く環境が大きく変わった今、幹線と地方交通線の区分も含め、これからの鉄道ネットワークをどのように支えていくのか、今後の議論に注目したいと思います。

