岡山市内の路線バスをめぐって、宇野バスが申請している新たな路線について議論が続いています。
宇野自動車は、岡山駅・岡山駅前と岡山東商業高校前、岡山大学附属小・中学校前、山陽学園中学・高校前を結ぶ新規路線の認可を申請しています。
しかし、岡山市はこの新規路線について「新設する必要性はない」とする意見を示しており、2026年7月8日に開催された「岡山市地域公共交通網形成協議会」第17回協議会でも、この問題が取り上げられました。
一方で、今回の議論では、岡山大学附属小学校の児童が朝の時間帯に路面電車を利用している実態も示されています。
「小学生を積み残しているのでは?」とも受け取れる問題ですが、実際の調査結果を見ると、単純に「積み残しが発生している」と言い切れる状況ではありません。
宇野自動車が認可申請を行っていた新たなバス路線について協議会で議論 岡山市は改めて路線の新設は必要ないという意見書を提出する方針
TBS NEWS DIG
宇野バスが申請している新規路線とは?
宇野自動車が申請しているのは、岡山駅・岡山駅前と東山地区の学校を結ぶ新たなバス路線です。
計画されている主な停車地は、
- 岡山駅・岡山駅前
- 岡山東商業高校前
- 岡山大学附属小・中学校前
- 山陽学園中学・高校前
などとなっています。
岡山駅と東山地区を結ぶルートとなるため、既存の両備グループ(岡電バス・両備バス・岡山電気軌道)の路線と一定の競合関係が生じます。
宇野バス側としては、学校への通学需要などを取り込む新たな路線として申請したものと考えられます。
一方、岡山市は既存の公共交通で対応できるとの考えを示しています。
岡山市は「新規路線の必要性はない」と判断
今回の問題で重要なのが、岡山市が宇野バスの新規路線について、必要性を認めていないことです。
岡山市地域公共交通網形成協議会では、宇野バスの新規路線申請についてこれまでも議論が行われてきました。
岡山市が問題としているのは、単純に「新しいバス路線ができると便利になるか」だけではありません。
岡山市では現在、路線バスの再編を進めています。
重複する路線を整理し、運行効率を高める一方、そこで生まれた余力を支線バスなどに振り向けるという考え方です。
そのため、既存路線と競合する新たな路線を認めることが、岡山市全体の公共交通ネットワークにとって本当にプラスになるのか、という観点から判断されています。
「小学生を積み残し?」岡山大学附属小学校の通学利用が焦点に
今回、特に注目したいのが岡山大学附属小学校の児童による朝の公共交通利用です。
第17回協議会では、岡山電気軌道が5月・6月の平日に路面電車東山線の利用状況を調査した結果が示されました。
調査は岡山駅前電停で岡山電気軌道の職員が目視で確認したもので、38日間にわたって実施されています。
その結果、岡山駅前から東山線に乗車した利用者は延べ26,618人。
このうち岡山大学附属小学校の児童は延べ1,276人で、全体の4.8%でした。
さらに、始業時刻の8時25分に間に合わない可能性が高い7時55分以降の便に乗車した児童も、調査期間中に延べ65人確認されています。
ここだけを見ると、「学校に間に合う便に乗れない児童がいるのではないか」「朝の路面電車が混雑しているのではないか」と感じるかもしれません。
しかし、調査結果を詳しく見ると少し事情が違います。
岡山市地域公共交通網形成協議会 第17回協議会の資料と今回の調査の結果はこちらをご覧ください。
東山線の利用者は減少しているが……
ここで注目したいのが、岡山電気軌道東山線の利用状況です。
国土交通省が公表した2025年度の混雑率では、東山線の岡山駅前→東山間の混雑率は69%でした。前年度から1ポイント低下しています。
輸送人員も605人で、前年度の725人から120人減少しています。一方、輸送力も880人となり、前年度の1,040人から160人減少しています。
つまり、東山線は利用者が減少しているだけでなく、輸送力も減少しているものの、混雑率は69%にとどまっています。
この数字だけを見ると、「東山線は混雑していて輸送力が足りない」という状況には見えません。
しかし、今回問題となっているのは、路線全体の平均的な利用状況ではなく、小学校の始業時刻に合わせた朝の特定の時間帯です。
岡山電気軌道が今回実施した調査では、岡山大学附属小学校の児童が朝の東山線を利用していることが確認されています。
路線全体では利用者が減少していても、特定の時間帯には一定の利用が集中する――今回の宇野バスの新規路線申請は、まさにこの問題をどう考えるかという議論でもあります。
始業時刻に間に合う最終便では「積み残し」は限定的
岡山大学附属小学校の始業時刻は8時25分。
岡山駅前を7時50分に発車する東山線の電車であれば、東山電停には8時15分に到着し、そこから徒歩約5分で学校に向かえるとされています。
一方、7時55分以降の便では、始業時刻に間に合わない可能性が高いとされています。
そこで、岡山電気軌道は途中の電停を含めた「一時的な滞留者数」も調査しました。
その結果、始業時刻に間に合う最終便である7時50分発の電車について、一時的な滞留者は調査期間全体で69人。
1日あたりの平均では1.8人でした。
さらに、そのうち岡山大学附属小学校の児童と推定される人数は、調査期間全体で3.3人、1日平均では0.09人。
雨天時に限っても、児童の推定人数は1日平均0.35人でした。
つまり、少なくとも今回の調査結果からは、「岡山大学附属小学校の児童が毎日のように大量に積み残されている」という状況とは言えません。
雨の日には公共交通の遅れが影響することも
ただし、問題が完全にないというわけでもありません。
岡山電気軌道の資料では、雨天時には他の交通機関からの乗り換え利用者が増えることや、道路渋滞などによって他の交通機関が遅れ、その影響を受けるケースがあることも指摘されています。
また、7時50分発の電車で最も一時的な滞留者が多かった2026年6月25日は雨天でした。
それでも、この日の7時50分発の電車については、その前の4本の電車が岡山駅前を約20人乗車できる状態で出発していたとされています。
岡山電気軌道は、5~10分前の便を利用することで、始業時刻に間に合う通学が可能としています。
この点を考えると、「積み残しがあるから宇野バスの新規路線が必要」という単純な話ではないことが分かります。
岡山市が宇野バスの新規路線に反対する理由
岡山市が新規路線の必要性を認めていない背景には、既存路線との競合もあります。
岡山駅と東山地区を結ぶ公共交通には、すでに両備グループのバス路線や路面電車があります。
宇野バスの新規路線が開設されれば、利用者にとって選択肢が増えるメリットがある一方、既存路線との利用者の奪い合いになる可能性もあります。
特に現在の岡山市は、運転士不足や利用者減少など、路線バスを取り巻く厳しい環境の中で、公共交通全体の再編を進めています。
「路線を増やせば便利になる」というだけではなく、「限られた運転士や車両をどこに配分するのか」という視点も必要になっています。
それでも宇野バスの新規路線には注目したい
今回の問題は、単純に岡山市と宇野バスのどちらが正しいという話ではありません。
岡山大学附属小学校や山陽学園、岡山東商業高校など、東山地区には学校が集まっています。
朝夕の通学時間帯には一定の需要があることは間違いありません。
一方で、現在の路面電車やバスでどこまで対応できるのか、既存交通を少し早い便に分散させることで対応できるのか、それとも新しいバス路線が必要なのか。
今回の議論は、岡山市が今後どのように公共交通を再編していくのかを考えるうえでも興味深いものです。
岡山市は今後、宇野バスの新規路線について改めて「新設の必要性はない」とする意見書を提出する方針です。
今後、中国運輸局がどのように判断するのかも注目されます。
岡山市の公共交通は「路線を増やす」から「再編する」段階へ
岡山市では現在、幹線バスと支線バスを組み合わせた公共交通ネットワークへの転換を進めています。
支線バス「FLAt」も順次運行を開始しており、重複するバス路線を再編して運行効率を高め、その余力を新たな交通サービスに振り向ける考え方です。
今回の宇野バスの新規路線をめぐる問題も、こうした岡山市の公共交通再編の流れの中で見る必要があります。
利用者からすれば「便利な新路線ができればいい」と思うところですが、路線バスは運転士、車両、道路容量、既存路線とのバランスなど、さまざまな条件の上に成り立っています。
岡山市が新規路線に「No」を出したことで、今後どのような公共交通ネットワークを作っていくのか、改めて注目されそうです。
まとめ
今回の問題は、宇野バスの新規路線が必要なのか、既存の路面電車で対応できるのかという単純な二者択一ではありません。
東山線は路線全体で見ると利用者が減少しており、混雑率も69%です。一方で、学校の始業時刻に合わせた朝の時間帯には一定の需要が集中しています。
岡山市が今後どのような判断を示し、中国運輸局が宇野バスの申請をどう扱うのか、岡山市の公共交通を考えるうえでも注目したいところです。

