インドネシアの国営鉄道会社KAIは2026年11月5日、日本から中古の通勤電車(KRL)を輸入する計画を撤回したことを明らかにしました。
今回の方針転換は、インドネシア国内の鉄道車両メーカーであるINKA(インカ)を支援し、国内産業を優先するためです。
日本ではすでに引退したJR東日本の205系(南部支線に1編成残っていますが)や東京メトロ6000系などが、現在もジャカルタ首都圏の通勤輸送を支えています。中古車両の輸入再開に向けた動きが伝えられていただけに、今回の決定は日本の鉄道ファンにとっても気になるニュースです。
Bos KAI Resmi Batalkan Rencana Impor KRL Bekas Jepang
CNBC Indonesia
KAIが日本の中古車両の輸入計画を撤回
CNBC Indonesiaによると、KAIのボビー・ラシディン社長は11月5日、ジャカルタの大統領宮殿で取材に応じ、日本から中古のKRLを輸入する計画はないと説明しました。
その理由として挙げたのが、国内産業への支援です。
KAIは今後、新型車両を合計23編成導入する必要があるとしており、その一部をINKAの国内生産によって調達する方針です。
また、海外企業との協力そのものを否定しているわけではありません。ただし、海外企業が関わる場合も、国内企業との協力を前提とする考えを示しています。
今回の計画では、23編成のうち8編成が早急に必要とされており、今後2~3年をかけて新型車両の調達を進める方針です。
なぜ日本の中古電車が検討されていたのか
今回の中古車両輸入計画の背景には、ジャカルタ首都圏の通勤鉄道の利用者増加と、既存車両の老朽化があります。
KAI側は、通勤電車の需要が増加する一方、現在使用している車両の中には製造から40年以上が経過したものもあり、車両の更新が課題になっていると説明していました。
新型車両を国内で製造する場合、調達までに時間がかかります。一方、日本の中古車両であれば、比較的短期間で導入できることから、当初は新型車両がそろうまでのつなぎとして輸入が検討されていました。
しかし、最終的には中古車両ではなく、新型車両の調達を優先する方針に転換したことになります。
日本の中古電車が走るジャカルタの通勤鉄道
インドネシアでは、2000年ごろから日本の中古電車が導入されてきました。
JR東日本の205系をはじめ、東京メトロ6000系・7000系、東急電鉄の車両など、日本で活躍を終えた車両がジャカルタ首都圏の通勤輸送に活用されています。
日本とインドネシアでは線路の幅が同じ1067mmであることも、中古車両を導入しやすい理由のひとつです。
当ブログでも、2026年10月5日に日本の中古電車の輸入再開に向けた動きを紹介しました。
また、2026年4月にはジャカルタ近郊で発生した鉄道事故に関連して、現地で運行されていた日本生まれの東京メトロ6000系についても取り上げています。
房総地区の209系が譲渡候補との見方もあったが……
日本の中古車両の輸入計画をめぐっては、房総地区で活躍しているJR東日本の209系が候補になるのではないかとの見方もありました。
房総地区では後継車両への置き換えが進められており、今後まとまった数の209系が余剰となる可能性があります。また、4両編成と6両編成があるため、ジャカルタの通勤鉄道で必要とされる8両・12両編成を組成できる点も、候補として名前が挙がった理由と考えられます。
実際に、2026年9月にはインドネシアのメディアでもJR209系の名前が取り上げられていました。ただし、JR東日本やKAIから209系の譲渡が正式に発表されていたわけではありません。
今回、中古車両の輸入計画そのものが撤回されたことで、209系の海外譲渡についても先行きが不透明になりました。
なぜインドネシアは国内メーカーを優先できるのか
今回のニュースで気になるのが、KAIが国内メーカーであるINKAを優先する方針を示している点です。
日本では、国や自治体などが一定金額以上の物品やサービスを調達する場合、WTOの政府調達協定(GPA)に基づき、外国企業にも市場を開放することが求められる場合があります。JR各社でも車両などの調達で国際入札が行われているため、一定規模以上の調達では国際競争入札が必要という印象を持つ人もいるかもしれません。
しかし、WTO加盟国であれば、すべての国が政府調達協定に参加しているわけではありません。
インドネシアはWTO加盟国ですが、政府調達協定(GPA)の締約国ではありません。そのため、日本と同じGPA上の国際調達義務を負っているわけではありません。
また、GATTにも政府機関による政府目的の調達について、一定の例外規定が設けられています。インドネシアには国内製品の使用を優先する国産化政策もあり、国内産業の育成を調達政策に反映させています。
ただし、KAIは国営企業であっても政府機関そのものではありません。今回の車両調達がGATTの政府調達例外に該当するかどうかは、調達主体や契約の実態などを踏まえて考える必要があります。
今回のKAIの方針は、単純に価格や納期だけで車両を選ぶのではなく、国内の鉄道車両メーカーであるINKAの生産基盤を支援し、国内産業を育成することを重視したものといえそうです。
鉄道車両は導入後も長期間にわたって使用されるため、製造技術や部品供給、メンテナンス体制を国内に維持できるかどうかも重要な課題です。今回の決定は、インドネシアが鉄道車両の調達を通じて国内産業の育成を目指していることを示す事例といえます。
中古車両の輸入撤回で日本の電車の海外譲渡にも影響?
今回の決定によって、少なくともKAIが検討していた日本の中古KRLの輸入計画は白紙となりました。
一方で、ジャカルタ首都圏では車両の老朽化や利用者増加への対応が必要であり、今後23編成の新型車両をどのように確保していくのかが注目されます。
INKAによる国内生産が計画どおり進むのか、また海外企業との技術協力がどのような形で実現するのかも気になるところです。
日本の鉄道ファンにとっては、引退した車両がインドネシアで第二の人生を歩む姿も興味深いものです。今回の方針転換が、今後の日本の中古車両の海外譲渡にどのような影響を与えるのか、引き続き注目したいと思います。

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