フィンランドの鉄道会社VRは、2026年11月末までに鉄道駅に設置している乗車券の券売機を撤去します。
デジタル化によって券売機の利用が大幅に減少したことが背景ですが、券売機がなくなった後も、乗車券を購入する方法はいくつか残されます。
そして興味深いのが、長距離列車では車内で車掌から乗車券を購入することもできる点です。
私たちと一緒に旅にようこそ — 列車は気候に優しい移動手段 – VR
フィンランド鉄道(VR)ホームページ
フィンランド鉄道のホームページは日本語に対応していませんので、こちらの記事も参考になるかと思います。
VRの駅券売機を11月末までに撤去
VRによると、現在使用している駅の券売機は技術的な耐用年数を迎えており、2026年11月末までに撤去されます。
すでに故障した券売機から順次撤去しているとのことで、交換部品の入手も難しくなっているとしています。
さらに、券売機で購入される乗車券はVRの近郊・長距離列車を合わせても全体の約2%。
一方、現在は96%の乗車券がデジタルで購入されています。
この利用状況からVRは、券売機を新しいシステムへ更新するのではなく、デジタルサービスなど利用の多い販売方法に力を入れる方針です。
券売機がなくなっても乗車券は購入できる
駅の券売機がなくなるからといって、駅で乗車券を購入できなくなるというわけではありません。
VRでは今後も、
- VR Matkallaアプリ
- VRのウェブサイト
- フィンランドのコンビニ「R-kioski」
- 電話によるカスタマーサービス
- ヘルシンキ中央駅のVRサービス窓口
などで乗車券を購入できます。
さらに、長距離列車では車掌から乗車券を購入することも可能です。車内で購入する場合は、76km未満では3ユーロ、76km以上では7ユーロの追加料金が設定されています。
つまり、券売機を撤去してデジタル販売だけに一本化するわけではありません。
指定席中心の長距離列車で車内購入も
ここで少し気になるのが、長距離列車での車内購入です。
VRの長距離列車にはInterCityやPendolinoなどがあり、単券や回数券を利用する場合は、原則として座席または寝台を予約する仕組みになっています。
では、列車が満席の場合はどうなるのでしょうか。
VRによると、満席の長距離列車にどうしても乗車したい場合、車内で車掌から「座席なし」の乗車券を購入することができます。
つまり、「車内で乗車券を買える=座席が用意されている」というわけではありません。
満席列車では座席を確保できないまま乗車することになるため、長距離を移動する場合にはなかなか大変そうです。
日本の感覚で考えると、指定席中心の長距離列車に「座席なし」で乗車する仕組みは少し珍しく感じます。
一方で、列車が運休した場合などには、元の乗車券を使って前後の列車に座席なしで乗車できるという扱いもあります。
VRでは、こうした場合に空いている座席を利用できると案内しています。
デジタル化しても「購入手段」をすべてなくすわけではない
今回のVRの券売機撤去で興味深いのは、デジタル化を進めながらも、利用者のための別の購入手段を残していることです。
96%がデジタル購入になっている以上、利用の少ない券売機を維持する必要性が小さくなっているのは確かでしょう。
一方で、スマートフォンやパソコンを使って購入することが難しい人もいます。
そのため、コンビニや電話、ヘルシンキ中央駅の窓口、そして長距離列車での車内購入という選択肢が残されています。
VRとしては、利用者の多いデジタルサービスに重点を置きながら、それ以外の購入手段も一定程度維持する形です。
フィンランドは鉄道インフラと列車運行を分けている
フィンランドの鉄道は、日本のJRとは仕組みが少し異なります。
鉄道ネットワークについてはフィンランド運輸インフラ庁(FTIA)が担当し、VRは列車や車内サービス、乗車券販売などを担当しています。
VR自身も、鉄道ネットワークや駅のプラットホームなどはフィンランド運輸インフラ庁が担当し、VRは列車・サービス・車内放送や乗車券販売を担当していると案内しています。
いわゆる「上下分離」に近い仕組みで、線路などの鉄道インフラと列車運行・旅客サービスが分けられています。
そのため今回のニュースも、鉄道インフラそのものの話ではなく、列車を運行するVRが旅客向けの乗車券販売方法を見直す話と考えると分かりやすいでしょう。
日本でも駅の「きっぷの買い方」は変わりつつある
日本でも、駅の券売機や窓口をめぐる環境は変化しています。
香川県のことでんでは、2026年10月1日からデジタル券売機への移行が進み、従来型の券売機は17駅に残る形となりました。
ことでんの場合は券売機そのものをすべてなくすのではなく、デジタル券売機への移行と従来型券売機の縮小という形です。
一方、さらに以前から「駅にきっぷ売り場を設けない」という発想があったのが、リニア中央新幹線です。
リニア中央新幹線では10年以上前から券売機なしの構想
リニア中央新幹線についてJR東海が2013年に発表した中間駅の概要では、営業専任要員を配置しないなど、駅の運用を効率化する考え方が示されました。
当時の資料をもとにした報道では、中間駅に出札室、つまりきっぷ売り場を設けず、インターネット予約やチケットレスなどを前提とする構想も紹介されています。
JR東海は2013年、中間駅について「営業専任要員は配置しない」など、効率性と機能性を追求したコンパクトな駅を目指す考えを示していました。
当時の資料では、駅のきっぷ売り場を設けないことも示されており、インターネット予約などを活用した新しい販売方法が想定されていました。
当時のプレスリリースは、JR東海のサイトからはすでに削除されていますので、Wayback Machineで保存された当時のJR東海公式資料へリンクを貼っています。
リンク:Wayback Machine
ただし、これは2013年時点で示された構想です。
リニア中央新幹線の開業時に、実際にどのような乗車券販売方法が採用されるのか、現在の営業制度として正式に決定したものとして受け取ることはできません。
それでも、駅で券売機や窓口を使ってきっぷを購入するという従来のスタイルを前提としない鉄道を、10年以上前から構想していたことは興味深いところです。
券売機をなくしても「きっぷを買う方法」は残る
フィンランドのVRも、駅の券売機を撤去する一方で、乗車券の購入手段をすべてなくすわけではありません。
ウェブサイトやアプリに加え、コンビニ、電話、有人窓口などの購入方法が残ります。
さらに長距離列車では、必要に応じて車掌から乗車券を購入できます。
ただし、VRの長距離列車は指定席が基本となっているため、満席列車で車内購入した場合には座席が確保されるとは限りません。
ここは、日本の鉄道でいう「自由席に乗るために車内で買う」というイメージとは少し違います。
駅の券売機をなくしても、利用者が困らないように別の購入手段を用意する。
VRの今回の取り組みを見ると、鉄道のデジタル化は単純に「紙のきっぷをなくす」という話ではなく、きっぷをどこで、どのように購入するのかを組み替えることでもあるようです。
日本のことでんや、かつて示されたリニア中央新幹線の構想を見ても、駅で券売機を使うことが鉄道利用の絶対条件ではなくなりつつあります。
フィンランドで駅の券売機が役割を終える今回のニュースは、遠い国の特殊な話というだけではなく、これからの日本の鉄道で「駅のきっぷ売り場」がどのような存在になっていくのかを考える材料にもなりそうです。


