鉄道会社では、利用者が少ない駅を無人駅にするなど、駅の利用状況に応じて駅員の配置を見直しています。
駅員を配置するには人件費がかかります。不正乗車によって失われる運賃収入と比較すれば、駅員を配置するよりも無人駅にした方が経営上合理的という判断もあるでしょう。
しかし、不正乗車の問題は、直接的な運賃収入の損失だけで考えてよいのでしょうか。
今回は、無人駅での不正乗車について、人の目が持つ抑止効果や「割れ窓理論」という視点から考えます。
弘南鉄道の駅で待合室のドアが壊される
2026年10月8日、弘南鉄道弘南線の柏農高校前駅で、待合室のドアが壊されているのが見つかりました。ドアの窓ガラスが割られ、もう1枚のドアは駅近くの田んぼに落ちていたと報じられています。
異変に気づいた利用者が列車の運転士に知らせ、弘南鉄道は警察に被害届を提出しました。列車の運行に影響はなかったものの、鉄道会社にとっては施設の修繕などの対応が必要になる被害です。
この事件は、駅の施設を維持することにもコストがかかると改めて考えさせられる出来事でした。
窓ガラスやドアを修理する費用だけでなく、被害の確認や警察への対応などにも手間がかかります。さらに、同様の被害が繰り返されれば、防犯対策の強化も検討する必要が出てくるかもしれません。
もちろん、今回の事件が無人駅だから発生したと断定することはできません。それでも、駅の施設を適切に管理し、利用者が安心して使える環境を維持することの大切さを考えるきっかけになります。
駅員を配置するコストと不正乗車による損失
無人駅の問題として、もう一つ考えたいのが不正乗車です。
駅員が改札口にいれば、乗車券の確認などを通じて不正乗車を抑止できます。一方、無人駅では駅員が直接確認できないため、乗車方法や設備によっては不正乗車を防ぎにくい場合があります。
以前であれば、無人駅がある路線では、整理券を利用した車内収受方式のワンマン運転・車掌もしくは社員が駅で乗車券の確認を行う形で運転を行うことで不正乗車を防止していました。
しかし、交通系IC乗車券の利用可能なエリアの拡大などにより利用者の多い駅でも無人化が進んだため十分な対応が行われていない路線もあるように感じます。
鉄道会社が駅員を配置するには、人件費をはじめとする費用がかかります。利用者が少ない駅では、駅員を配置するための費用が、不正乗車を防ぐことで確保できる運賃収入を上回る可能性もあります。
企業経営の観点から見れば、費用と収入を比較して駅員の配置を判断することは理解できます。
しかし、ここで気になるのは、不正乗車による損失を、支払われなかった運賃だけで評価してよいのかという点です。
「割れ窓理論」で考える人の目の効果
ここで思い浮かぶのが「割れ窓理論」です。
割れ窓理論とは、軽微な犯罪やルール違反などが放置されることで、規範意識が薄れ、さらなる違反につながる可能性があるという考え方です。
鉄道の駅に当てはめるなら、駅の施設が壊されても放置されている、不正乗車が見つかりにくいといった状況が、ルールを守ろうとする意識に影響する可能性はないでしょうか。
もちろん、無人駅であることが不正乗車を増やすと一概にはいえません。また、今回の弘南鉄道の器物損壊事件と不正乗車は別の問題です。割れ窓理論をそのまま当てはめれば、問題が解決するというものでもありません。
それでも、人の目があることには一定の抑止効果が期待できます。
誰かに見られているかもしれないという意識があれば、不正乗車や施設へのいたずらを思いとどまる人もいるでしょう。反対に、誰も見ていないと思えば、ルール違反への心理的な抵抗が小さくなる可能性もあります。
駅員を配置することの意味は、乗車券を確認することだけではありません。人がいることで生まれる安心感や、ルール違反を思いとどまらせる効果も、考慮すべき要素ではないでしょうか。
地域の人が関わる駅という選択肢
では、駅員を常駐させる以外に、人の目がある環境をつくる方法はないのでしょうか。
以前、芸備線の志和口駅を地域住民の活動拠点として活用する取り組みを紹介しました。
志和口駅以外でも、郵便局として活用する駅・店舗として活用する駅なども全国には存在しています。
駅を列車に乗り降りするだけの場所ではなく、地域の人が集まり、日常的に関わる場所として活用することは、無人駅のあり方を考えるうえで一つのヒントになります。
地域の人が駅を利用したり、活動拠点として関わったりすれば、駅に人の気配が生まれます。駅員が常駐していなくても、誰かが利用している、誰かの目があるという環境ができる可能性があります。
もちろん、地域住民が駅に関わるだけで不正乗車や器物損壊を防げるわけではありません。地域の人に防犯の役割を負わせることも適切ではないでしょう。
それでも、駅員の配置だけに頼らず、地域との関わりを通じて駅を維持していくという考え方は、これからの無人駅を考えるうえで重要なのかもしれません。
コスト削減だけでは測れない駅の価値
鉄道会社にとって、人件費を抑え、限られた人員を有効に活用することは重要です。利用者が少ない駅に駅員を配置し続けることが難しい場合もあるでしょう。
一方で、不正乗車や器物損壊が発生すれば、運賃収入の損失や施設の修繕費だけでなく、対応にかかる手間も発生します。さらに、利用者が安心して駅を利用できる環境や、ルールを守る意識を維持することも大切です。
駅員配置の費用と不正乗車による直接的な損失を比較することは、企業経営上の合理的な判断の一つです。しかし、その比較だけでは、人の目が持つ抑止効果や、駅を地域の拠点として維持する価値までは十分に評価できないのではないでしょうか。
すべての無人駅に駅員を配置すればよいという話ではありません。限られたコストのなかで、どのように不正を防ぎ、施設を管理し、利用者が安心して使える環境を維持するかが問われています。
目先のコスト削減だけでなく、ルールを守る意識や駅を大切に使う環境をどう維持していくか。無人駅のあり方を考えるうえで、こうした視点も必要なのではないでしょうか。

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