福岡県の第三セクター鉄道「平成筑豊鉄道」をめぐり、大きな動きがありました。
2026年3月、平成筑豊鉄道は鉄道を廃止し、路線バスへ転換する方向性が決まっていました。
その後、2029年4月からのバス転換を見据えて準備が進められていましたが、9月8日に開かれた協議会で、福岡県が示した「2028年度末までに鉄道の運行を終了する」というスケジュール案について、沿線自治体などから「バスへの切り替え準備が間に合わない」といった意見が出ました。
これを受け、福岡県はスケジュール案を見直すことになりました。
つまり、平成筑豊鉄道の鉄道廃止・バス転換そのものが撤回されたわけではありません。
今回の焦点は、これまで示されていた「2029年4月」という転換時期が、今後変更される可能性が出てきたことです。
「バス切り替えの準備が間に合わない」運行終了時期を見直しへ 沿線自治体の反対を受け 平成筑豊鉄道
FBS福岡放送
かつては貨物輸送も担った平成筑豊鉄道
今回のバス転換をめぐる動きを考えるうえで、平成筑豊鉄道がこれまで歩んできた歴史にも触れておきたいところです。
平成筑豊鉄道は1989年10月1日に開業しました。
現在の伊田線、糸田線、田川線の3路線、合わせて49.2kmで旅客営業を開始しましたが、開業当初は旅客輸送だけではありませんでした。
伊田線の直方~金田間9.8kmでは、貨物営業も行われていました。
平成筑豊鉄道が走る筑豊地域は、かつて石炭産業で栄えた地域です。
石炭産業の衰退後も、鉄道は地域の旅客輸送だけでなく、産業を支える輸送手段としての役割を担っていました。
しかし、時代とともに貨物輸送を取り巻く環境も変化。
平成筑豊鉄道は2004年3月26日にセメント輸送から撤退しました。
これは、現在の平成筑豊鉄道を考えるうえでも大きな転換点の一つといえそうです。
その後は旅客輸送を中心とする地域鉄道として運行を続ける一方、沿線の観光資源を生かした取り組みにも力を入れてきました。
2019年には観光列車「ことこと列車」の運行を開始。
地域住民の生活を支えるだけでなく、沿線を訪れる観光客にも「へいちく」に乗ってもらうことで、鉄道の利用促進を図ってきました。
しかし、旅客輸送を取り巻く環境は厳しさを増しています。
そして2026年3月、平成筑豊鉄道沿線地域公共交通協議会で、鉄道を廃止してバスへ転換していくという大きな方向性が決議されました。
平成筑豊鉄道自身も、当時の発表で「今後のスケジュールは定まっていない」としながらも、鉄道を廃止してバスへ転換する方向が決まったことを公表しています。
1989年の開業から約37年。
貨物輸送を担っていた時代から旅客中心のローカル鉄道へ、そして観光列車にも力を入れる鉄道へと姿を変えてきた「へいちく」が、今度は鉄道そのものからバスへと役割を変えようとしています。
これまで「2029年4月からバス転換」とされていた
今回のニュースを理解するうえで重要なのが、これまでのスケジュールです。
2026年9月に入ってから、福岡県が2028年度末で鉄道の運行を終了し、その後バスへ転換する方向で調整していることが報じられていました。
2028年度末は2029年3月末です。
そのため、2029年4月から新しいバス交通へ切り替えるというスケジュールが想定されていました。
当ブログでも、先日「2029年4月からのバス転換が見込まれる」として、平成筑豊鉄道の今後について紹介しました。
ところが、今回、そのスケジュールに待ったがかかりました。
「バスへの切り替え準備が間に合わない」と沿線自治体から意見
FBS福岡放送によると、9月8日に開かれた協議会で、福岡県は鉄道の運行を2028年度までとする案を示しました。
しかし、沿線自治体などからは、バスに切り替えるための準備が間に合わないとの意見が出ました。
これを受けて、福岡県はスケジュール案を見直すことになりました。
ここは今回のニュースで特に注意したいところです。
「平成筑豊鉄道のバス転換が中止になった」という話ではありません。
2026年3月に決まった「鉄道を廃止して路線バスへ転換する」という大きな方向性は維持されたままです。
一方で、2028年度末で鉄道運行を終了し、2029年4月からバスへ移行するという具体的なスケジュールについては、いったん見直されることになりました。
鉄道の廃止時期が延びる可能性も出てきたことになります。
なぜバス転換に時間がかかるのか
鉄道を廃止してバスに転換するといっても、単純に線路の横をバスが走ればよいというわけではありません。
平成筑豊鉄道は約49.2kmの鉄道路線を持ち、複数の自治体をまたいで運行しています。
現在の鉄道利用者が、どの駅からどの駅へ移動しているのか。
通勤・通学だけでなく、病院への通院や買い物など、地域住民がどのように鉄道を利用しているのか。
さらに、バス停をどこに設置するのか、どの程度の本数を確保するのか、運賃をどうするのかといった問題もあります。
鉄道の駅とバス停を完全に同じ場所にすれば便利とは限りません。
道路事情や住宅地との位置関係などを考えながら、新しい交通網を作る必要があります。
それに加え、近年のバスドライバー不足によりバスの運転手の確保も容易ではありません。
今回、沿線自治体から「準備が間に合わない」という意見が出たのも、こうした事情が背景にあると考えられます。
バスは「自治体やNPOが主体」の形を基本に検討
今回の協議では、鉄道区間を引き継ぐバスについて、自治体やNPOが主体となって運行する形を基本として検討を進めることで合意したとFBSが報じています。
つまり、単純に現在の鉄道会社がそのままバス会社になるという話ではありません。
新しい地域交通の仕組みを作る必要があります。
福岡県では、平成筑豊鉄道沿線地域の公共交通について、利便増進実施計画の策定を支援する業務の公募も行っています。
このことからも、バス転換に向けて具体的な交通体系を作っている段階であることが分かります。
今回のスケジュール見直しによって、こうした準備にも一定の時間を確保することができる可能性があります。
「へいちく」の鉄道はいつまで走る?
では、今回の見直しによって、平成筑豊鉄道の鉄道はいつまで走るのでしょうか。
現時点では、新しい鉄道運行終了日が決まったわけではありません。
これまで想定されていた2028年度末、つまり2029年3月末までの鉄道運行終了案は、沿線自治体などからの意見を受けて見直されることになりました。
そのため、2029年4月から必ずバスへ切り替わるとは、現時点では言えなくなりました。
今後の協議によって、鉄道の運行終了時期が変更される可能性があります。
鉄道ファンとしては、「廃線が決まったから2029年3月まで」と考えるのではなく、今後発表される協議会の内容を確認していく必要がありそうです。
廃線そのものが撤回されたわけではない点に注意
今回のニュースで最も誤解しやすいのが、「バス転換のスケジュール見直し」と「鉄道存続」は別の話だということです。
2026年3月の協議会では、平成筑豊鉄道の今後について路線バス案が大きな方向性として決まりました。
福岡県も、今後は沿線市町村とともに「地域に根ざし、地域の皆さまに愛され、利用される持続可能な路線バス」を作っていく方針を示しています。
今回の9月8日の協議では、そのバス転換をいつ実施するのかというスケジュールについて、準備期間が足りないとの意見が出たということです。
したがって、
「平成筑豊鉄道が存続することになった」
という意味ではありません。
今後も基本的には、鉄道から路線バスへの転換に向けた議論が続くことになります。
「潮風号」はどうなる? 「36ぷらす3」と組み合わせる可能性にも注目
alt="門司港レトロ観光線 潮風号" class="wp-image-15430"/>平成筑豊鉄道の今後を考えるうえで、もう一つ気になるのが、北九州市門司区を走る「門司港レトロ観光線」です。
門司港レトロ観光線は、九州鉄道記念館駅と関門海峡めかり駅を結ぶ観光鉄道で、トロッコ列車「潮風号」が運行されています。
今回、バスへの転換が検討されているのは伊田線・糸田線・田川線の3路線であり、門司港レトロ観光線はその対象ではありません。
さらに、門司港レトロ観光線は運営方法も異なります。
北九州市が第3種鉄道事業者として鉄道施設を保有し、平成筑豊鉄道が第2種鉄道事業者として列車を運行する「上下分離方式」です。
そのため、仮に将来、平成筑豊鉄道の経営環境が変化したとしても、門司港レトロ観光線の施設そのものが直ちに使えなくなるという仕組みではありません。
ここで興味深いのが、JR九州の観光列車「36ぷらす3」との組み合わせです。
「36ぷらす3」の日曜日ルート「青の路」は、大分駅を出発して門司港駅へ向かいます。現在のダイヤでは、門司港駅に13時40分頃に到着し、約80分停車して自由散策した後、小倉、博多へ向かいます。
この80分という時間があるため、門司港レトロ地区を散策するだけでなく、観光列車「潮風号」に乗車することも、時間的には検討できそうです。
ただし、現在のJR九州の「36ぷらす3」の公式案内では、「潮風号」への乗車をセットにした観光プランとしては紹介されていません。
JR九州と平成筑豊鉄道は別会社であり、「36ぷらす3」が遅れた場合には潮風号との乗り継ぎを保証できません。また、潮風号は通常の通勤・通学列車とは異なる観光列車で、運行日や時間も限られています。
こうした事情から、現在は「36ぷらす3」の自由時間に各自で門司港観光を楽しむ形になっているものと考えられます。
一方で、平成筑豊鉄道の経営・運営体制が今後変化し、JR九州や北九州市との連携がさらに深まることになれば、将来的に「36ぷらす3」と「潮風号」を組み合わせた観光商品が登場する可能性も考えられます。
もちろん、現時点でJR九州が潮風号の運行を引き受ける計画や、「36ぷらす3」に潮風号を組み込む計画が発表されているわけではありません。
それでも、門司港駅で約80分という時間が設定されている「36ぷらす3」と、門司港レトロ地区を走る「潮風号」は、観光列車同士の組み合わせとしては非常に相性のよい存在です。
平成筑豊鉄道の鉄道事業をめぐっては、生活路線についてはバス転換が検討される一方、門司港レトロ観光線のような観光鉄道については、別の形で活用していく可能性もあります。
「へいちく」の今後を考える際には、鉄道を残す・廃止するという二択だけではなく、どの鉄道をどのような形で観光資源として残していくのかという視点も重要になりそうです。
平成筑豊鉄道の「終わり」が少し先になる可能性も
2026年3月に鉄道からバスへの転換方針が決まり、2029年4月からのバス転換が見込まれていました。
しかし、今回、沿線自治体などから準備期間について意見が出たことで、スケジュールは見直されることになりました。
現時点で整理すると、
- 平成筑豊鉄道は鉄道から路線バスへ転換する方向
- 2026年3月に路線バス案が決定
- これまでは2028年度末までに鉄道運行を終了する案が示されていた
- 2029年4月からのバス転換が想定されていた
- 沿線自治体などから「バスへの切り替え準備が間に合わない」との意見
- 福岡県がスケジュール案を見直すことになった
- 新しい鉄道運行終了日は現時点では決まっていない
という状況です。
今回のニュースによって、平成筑豊鉄道の鉄道がすぐに廃止されるわけではありません。
むしろ、バス転換に必要な準備を整えるため、鉄道の運行終了時期がこれまでの想定より後ろにずれる可能性が出てきました。
今後、協議会で新たなスケジュールが示されれば、平成筑豊鉄道の「最後の日」が具体的に見えてくることになります。
地域の生活を支えてきた「へいちく」が、どのような形でバスへ引き継がれるのか。
そして、鉄道としての平成筑豊鉄道がいつまで走り続けるのか。
今後の協議と発表に注目したいと思います。




