富山地方鉄道の鉄道線について、9月29日に開かれる「富山地方鉄道鉄道線再構築検討会」で「みなし上下分離方式」が決まれば、全線を存続させる方針が示されました。
富山地方鉄道ではこれまで、一部区間について廃止も選択肢として検討されてきましたが、全線を維持しながら行政の支援を受ける方向へ動いています。
ただし、9月29日の検討会で事業構造や費用負担などが決まる必要があり、まだ最終決定とはいえません。
【富山地鉄】新庄一洋社長“みなし上下分離”決定で全線存続の意向 29日の検討会で協議 利便性向上とファン獲得の積極策で再構築へ
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9月29日に富山地方鉄道鉄道線再構築検討会を開催
富山県は9月18日、「第3回富山地方鉄道鉄道線再構築検討会・第3回本線部会」を9月29日に開催すると発表しました。
検討会は9月29日(火)の16時45分から17時45分まで開催される予定です。
今回の主な議題は、
- 再構築事業に係る事業構造の変更
- 再構築国庫補助事業費及び費用負担
- 検討会の設置要綱の改正
などとなっています。
つまり、これまで議論されてきた富山地方鉄道の鉄道線を今後どのような仕組みで維持していくのか、そしてそのために必要となる費用を誰がどのように負担するのかが、大きなポイントになります。
「みなし上下分離」なら富山地鉄は全線存続の意向
富山地方鉄道の新庄一洋社長は、9月11日のインタビューで、鉄道線の経営方式について「みなし上下分離方式」が望ましいとの考えを示しました。
一般的な「上下分離方式」では、鉄道事業者が列車の運行を担当する一方、線路や駅などの鉄道インフラを行政などが保有・維持管理する形になります。
一方、「みなし上下分離方式」では、鉄道施設の保有や維持管理、列車の運行はこれまで通り鉄道事業者が担います。
そのうえで、行政が線路などのインフラ部分に対して財政支援を行うことで、実質的に「上」と「下」の負担を分ける仕組みです。
富山地方鉄道は路線網が長く、山岳地帯も走っています。
そのため新庄社長は、長年鉄道を維持してきた富山地方鉄道が引き続き施設を管理し、県や沿線自治体から委託を受ける形が適切との考えを示しています。
そして、9月29日の検討会で県と沿線自治体が「みなし上下分離」方式で鉄道線を運営する方針をまとめ、それを富山地方鉄道が受け入れれば、全線を存続させる考えを示しました。
「みなし上下分離」は、鉄道事業者の負担を軽減し、鉄道を存続させるための方法の一つです。
しかし、みなし上下分離や上下分離を導入すれば、鉄道の存続が決まるわけではありません。
そのことを示す事例が、近年いくつかあります。
名古屋鉄道「広見線」
名鉄広見線の新可児~御嵩間では、沿線自治体が「みなし上下分離方式」による存続を検討していました。しかし、自治体側が負担する費用が大きく、物価や人件費の上昇、災害時の復旧費用なども考慮した結果、2026年5月に協議を終了しました。
詳しくはこちらの記事で紹介しています。
JR北海道「黄線区8線区」
また、JR北海道の黄線区8線区でも、上下分離が簡単な解決策ではないことが明らかになっています。
JR北海道は2026年4月、単独では維持が困難な黄8線区について、線路などの鉄道資産を自治体側が保有し、JR北海道が列車運行などを担う「上下分離方式」を検討する考えを示しました。
しかし、沿線自治体から財政負担への懸念が相次ぎ、協議が進まなかったことから、JR北海道は9月16日に上下分離方式の提案を撤回しました。今後は国や北海道も参加する新たな協議会で、黄線区の持続可能な運営方法について議論することになっています。
詳しくはこちらの記事で紹介しています。
この2つの事例からも、上下分離は「鉄道事業者の負担を自治体などに移せば解決する」という単純な仕組みではないことが分かります。
特にJR北海道が4月に示した資料では、黄8線区の2024年度の営業損益は8線区合計で約148億円の赤字となっており、施設の維持・修繕などにも多額の費用がかかっています。
一方、富山地方鉄道では、現在の事業者である富山地方鉄道が運行を続けながら、行政がインフラ部分を支援する「みなし上下分離」が検討されています。
そのため、9月29日の検討会で重要になるのは、単に「みなし上下分離を導入するか」だけではありません。
富山地方鉄道の場合、必要となる費用を県や沿線自治体などがどこまで負担するのか。そして、その負担を将来にわたって続けられる仕組みにできるのか。
ここが大きなポイントになります。
城端線・氷見線では「あいの風とやま鉄道」が赤字負担を条件に
富山県内では、すでにJR西日本から経営を引き継ぐことになった城端線・氷見線でも、鉄道を将来にわたって維持するための費用負担が大きな課題となりました。
城端線・氷見線については、JR西日本から経営を引き継ぐ鉄道事業者として「あいの風とやま鉄道」が想定されています。
しかし、あいの風とやま鉄道は引き受ける条件として、城端線・氷見線の赤字補填を保証することなどを求めました。
富山県が公表した資料では、城端線・氷見線を引き継いだ場合でも、現在のあいの風とやま鉄道の路線経営に支障が出ないよう、城端線・氷見線について区分経理を行い、赤字補填を保証することが条件として示されています。
また、JR西日本からの運転士・技術系社員の出向や、移管前のレール、まくら木、分岐器、道床などの再整備、設備整備なども条件に挙げられています。
つまり、鉄道を別の事業者に引き継げば、それだけで問題が解決するわけではありません。
引き受ける側の鉄道会社にとっては、赤字をどこが負担するのか、老朽化した設備を誰が整備するのか、人員をどう確保するのかという問題があります。
この城端線・氷見線の事例は、今回の富山地方鉄道の再構築を考えるうえでも参考になります。
富山地鉄も「誰が負担するのか」が大きな問題
富山地方鉄道の場合は、城端線・氷見線のように別の鉄道会社へ経営を移すのではなく、現在の富山地方鉄道が運行を続けながら、行政がインフラ部分を支援する「みなし上下分離」が検討されています。
これは、富山地方鉄道にとっても大きな意味があります。
鉄道施設の維持には多額の費用が必要ですが、その負担を行政が一定程度担うことで、鉄道事業者の負担を軽減することができます。
一方で、行政が支援するということは、最終的には国や県、沿線自治体などが費用を負担することになります。
9月29日の検討会でも「再構築国庫補助事業費及び費用負担」が議題となっており、どの程度の費用を誰が負担するのかは重要な論点です。
城端線・氷見線で「あいの風とやま鉄道」が赤字補填を求めたことを考えても、富山地方鉄道の問題でも単純に「鉄道を残す」というだけではなく、将来の赤字や設備更新費をどのように負担するのかを決める必要があります。
これまで一部区間では廃止も検討
富山地方鉄道をめぐっては、これまで鉄道線の一部区間について存廃問題が浮上していました。
2025年には、本線の滑川~新魚津間や立山線の岩峅寺~立山間などについて、自治体による支援が得られなければ廃止に向けた手続きを進める可能性が示されていました。
その後、2026年度については沿線自治体による支援などによって全線で運行を継続することになり、さらに鉄道線そのものを持続可能な形に再構築するための検討が進められています。
現在は「本線部会」「立山線部会」「不二越上滝線部会」の3つの部会を設置して、再構築事業について検討しています。
今回の9月29日の検討会は、この議論を大きく前進させるものとなりそうです。
全線存続が見えても問題は残る
もっとも、「みなし上下分離」が決まればすべての問題が解決するわけではありません。
最大の問題は、鉄道を維持するための費用を今後どのように負担していくのかという点です。
行政がインフラ部分を支援する「みなし上下分離」は、鉄道事業者の負担を軽減する効果が期待できます。
一方で、利用者が減少している区間では、施設を維持するための費用そのものがなくなるわけではありません。
そのため、行政からの支援をどの程度、どの期間にわたって行うのかという点は、今後も重要な課題になります。
また、鉄道を存続させるだけでなく、利用者を増やすための取り組みも必要です。
富山地方鉄道側も、利便性の向上や鉄道ファンを取り込むための積極的な施策などを進め、鉄道線の再構築につなげたい考えを示しています。
利便性の向上としては、「運行本数の増加」と「自治体の補助による運賃実質値下げ」をあげています。
まとめ 9月29日の検討会でどこまで決まるか
今回のニュースで重要なのは、富山地方鉄道が「みなし上下分離」が決まれば全線存続する意向を明確にしたことです。
これまで一部区間の廃止が現実的な選択肢として検討されていたことを考えると、大きな方向転換といえます。
ただし、9月29日の検討会では「事業構造の変更」だけでなく、「国庫補助事業費」や「費用負担」も議題となっています。
城端線・氷見線のケースでも、別の鉄道会社が運営を引き受けるためには、赤字補填や設備整備などについて条件を整理する必要がありました。
富山地方鉄道についても、
「全線を残すかどうか」だけでなく、「全線をどのような仕組みで、誰が負担して維持していくのか」
というところまで注目する必要がありそうです。
富山地方鉄道は、富山駅から宇奈月温泉、立山方面などを結ぶ富山県の重要な鉄道網です。
今回の再構築が単なる「廃線回避」にとどまらず、将来にわたって利用される鉄道へとつながるのか、今後の議論を見ていきたいところです。
※9月29日の検討会で具体的な事業構造や費用負担が決まった場合は、この記事でも追記する予定です。




