2027年度から「みなし上下分離方式」に移行し、鉄道線3路線を全線存続させる方向となった富山地方鉄道。
全線存続に向けては、10年間で78億円の鉄道施設維持管理費が必要とされていますが、これとは別に、利便性や安全性を高めるための「機能向上」にも多額の費用が必要になります。
今回、本線では10年間で50.8億円、立山線では22.2億円の機能向上費用が見込まれていることが報じられました。
新型車両導入など利便性向上策や負担割合の案示す 富山地方鉄道立山線の再構築
北日本放送ホームページ
【富山地鉄】10年で39億円の公費負担へ 地鉄と行政で折半も…どうする沿線自治体の負担割合 路線維持で“攻め”の再構築は【記者解説】
TBS NWES DIG(チューリップテレビホームページ)
すでに判明している本線・立山線で10年間に約73億円
本線の機能向上に10年間で50.8億円
富山地方鉄道本線では、今後10年間で50.8億円の機能向上費用が見込まれています。
レールや枕木の更新による乗り心地の改善、中古車両の導入、クレジットカードによるタッチ決済への対応などが計画されています。
50.8億円という金額はかなり大きく感じますが、単純に「赤字補填」に使われるお金ではありません。
鉄道を安全に維持するだけでなく、利用者にとって使いやすい鉄道にしていくための投資という位置付けです。
立山線は22.2億円 不二越・上滝線は今後の議論
立山線については、10年間で22.2億円の機能向上費用が見込まれています。
一方、不二越・上滝線については、今後の整備内容や費用について引き続き議論されることになります。
今回の数字だけを見ても、富山地方鉄道の全線存続には「線路を残す」だけではなく、設備の更新や利便性向上のために相当な投資が必要になることが分かります。
維持管理費78億円とは別の費用
ここで注意したいのが、今回の機能向上費用と、これまで報じられていた維持管理費78億円は別のものだということです。
維持管理費78億円は、2027年度から10年間の鉄道施設の維持管理に必要な費用。
一方、今回の50.8億円や22.2億円は、設備更新や利便性向上などのための費用です。
つまり、富山地方鉄道の全線を10年間維持するためには、78億円だけを用意すればよいわけではありません。
「維持するためのお金」と「より良い鉄道にするためのお金」の両方が必要になります。
国の補助も活用
こうした機能向上については、国の補助制度も活用されます。
地域公共交通の再構築を支援する制度では、社会資本整備総合交付金が活用されています。
基本的な補助率は2分の1で、JR本州3社や大手民鉄の路線については3分の1とされています。
富山地方鉄道は大手民鉄には該当しないため、JR本州3社や大手民鉄に適用される3分の1の区分とは異なります。
なお、JR九州・JR北海道・JR四国も「JR本州3社」には含まれません。このあたりは「JRだから一律3分の1」という制度ではないことが分かります。
同じ富山県内では城端線・氷見線でも
富山県内では、城端線・氷見線でも社会資本整備総合交付金を活用した鉄道の再構築が進められています。
城端線・氷見線は、現在はJR西日本が運行していますが、将来的にはあいの風とやま鉄道へ事業主体が変更される計画です。
JR西日本からあいの風とやま鉄道へ移管することによって、地域公共交通の再構築に向けた国の支援制度を活用し、新型車両の導入やICカード対応などの整備が進められています。
私が以前紹介した氷見線の雨晴駅の改修も、こうした富山県内の鉄道再構築の流れの一つです。
富山地方鉄道だけでなく、県内の複数の鉄道で「残すだけではなく、どう使いやすくするか」という取り組みが進んでいます。
7市町村の負担割合をどうするのか
そして、ここからが富山地方鉄道にとって難しいところかもしれません。
維持管理費78億円については、富山地方鉄道、富山県、沿線7市町村がそれぞれ一定の割合を負担する枠組みが示されています。
しかし、沿線7市町村が実際にどのような割合で負担するのかについては、今後の協議が必要です。
すでに滑川市や立山町からも、それぞれの考え方が示されています。
例えば、単純に駅の数や路線の長さだけで負担を決めるのか、それとも実際の利用者数などを考慮するのか。
さらに、立山線のように観光輸送の役割が大きい路線では、観光客の利用をどのように評価するのかという問題もあります。
利用者を増やすために投資をした結果、利用者数が増えて、それを負担割合の算定にも反映させるのであれば、「利用者を増やした自治体ほど負担が増える」という考え方にもなりかねません。
どの指標を使うのかによって、自治体ごとの負担額は変わってきます。
全線存続が決まった富山地方鉄道ですが、自治体側から見れば、ここからが本格的な調整になると言えそうです。
社会資本整備や公共交通計画にも使われる人口データ
今回の富山市の国勢調査をめぐる問題を考えると、人口という数字がどのような場面で使われているのかも気になります。
国勢調査の人口は、地方交付税の算定だけでなく、地域の公共交通を考える際の基礎データとしても使われています。
例えば岡山県倉敷市の「倉敷市地域公共交通計画」では、鉄道駅から800メートル圏内、バス停などから300メートル圏内といった公共交通サービスの範囲を設定し、その範囲内・範囲外に住んでいる人口を分析しています。
人口分布には国勢調査のデータが使われており、駅やバス停の位置と人口を重ねることで、「公共交通を利用しやすい地域」と「公共交通から離れている地域」がどの程度あるのかを把握しています。
これは倉敷市に限った話ではありません。
地域公共交通の計画では、人口分布、高齢化率、駅やバス停からの距離、利用者数など、さまざまなデータを組み合わせて地域の公共交通の状況を分析します。
つまり、国勢調査の人口は単なる「日本に何人住んでいるか」を調べるための数字ではなく、公共交通をどこに整備し、どの地域を重点的に支援するのかを考える際にも使われる重要な基礎データです。
今回の富山市の問題が、そのまま富山地方鉄道の補助額や自治体の負担割合に影響するという意味ではありません。
ただ、国の社会資本整備や自治体の公共交通計画などで人口データが使われていることを考えると、基礎となる統計が正確であることは非常に重要だと言えそうです。
全線存続はゴールではなくスタート
富山地方鉄道は2027年度からの「みなし上下分離方式」によって、全線存続へ向かいます。
しかし、今回明らかになった数字を見ると、全線を残すことが決まっただけでは終わりません。
10年間の維持管理費78億円。
さらに本線の機能向上に50.8億円、立山線に22.2億円。
そして、その費用を国・県・沿線自治体などでどのように負担するのかという問題があります。
さらに、設備を更新して利便性を高めた結果、利用者をどこまで増やせるのかも重要です。
「鉄道を残す」ための議論から、「残した鉄道をどう活用し、利用される鉄道にしていくのか」という段階へ。
富山地方鉄道の再構築は、これからが本番なのかもしれません。


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