JR西日本の大糸線・糸魚川~南小谷間について、沿線自治体などで構成する「大糸線(糸魚川・南小谷間)沿線地域公共交通検討会議」が、2026年9月25日(金)に第5回会議を開催しました。
JR西日本の発表によると2025年度の大糸線(南小谷~糸魚川)の輸送密度は135人(2024年度は150人)となっており、大量輸送という観点で鉄道の特性が十分に発揮できていない区間として近いうちに収支状況・営業係数が発表される予定となっている区間です(2024年度の発表では、2022年度~2024年度の3年間の平均は、運輸収入が3000万円・営業費用が5億9000万円 営業係数2,132)。
今回の会議では、これまで検討してきた大糸線の課題を踏まえ、将来の交通モードについて比較検討。
鉄道をそのまま残すだけではなく、観光列車、LRT、バス、BRT、DMVまで、6つのパターンについて整理されています。
以前、当ブログでは大糸線について「芸備線の次?」とささやかれる大糸線 活性化協議会が開かれる理由として、沿線で始まった議論を紹介しました。
今回は、その議論が一歩進んだ形になります。
資料3-1(交通モードの比較検討について)(PDF:931KB)
長野県ホームページ
大糸線の将来について6つのパターンを比較
今回の資料で比較されたのは、次の6つです。
- 鉄道高度化
- 観光列車
- LRT
- バス交通
- BRT
- DMV
あくまで現時点での比較検討であり、この中から一つが決定したわけではありません。
検討では「運行の安定性」「生活・観光の両面から見た交通機能・利便性」「実現可能性・持続可能性」などを比較しています。
大糸線の場合、特に大きな課題となっているのが、冬季を中心とした気象条件です。
資料では、現在の鉄道について、専用軌道を走るため定時性は高い一方、雨・風・雪などによる運休は避けられず、特に豪雪地帯である大糸線沿線では冬季の運休が多く発生するとしています。
そのため「安定して運行できる交通」という視点が重要になっています。
比較対象となった6つの選択肢
鉄道を高度化する場合は大きな投資が必要
まず、現在の鉄道を残しながらサービスを向上させる「鉄道高度化」です。
新型車両の導入、交通系ICなどの導入、運行本数の増加、パターンダイヤなどが想定されています。
鉄道であれば、新幹線との接続や二次交通とのダイヤ調整によって利便性を高めることもできます。
一方で、コスト面では厳しい内容となっており、柔軟なダイヤを実現するための行き違い設備などの改良には、1か所あたり約20億円、新型車両は約5億円/両が必要とされています。
現在の大糸線の運行経費は年間約6.4億円とされており、設備や人員を増やす場合には、現在以上の経費が必要になるとされています。
単純に「鉄道を残す」といっても、現在の設備のまま維持するという話ではありません。
観光列車という方法も
大糸線沿線は観光需要も大きく、資料では「観光列車」も比較対象になっています。
乗車そのものを観光体験とする列車で、新潟県内を走るえちごトキめき鉄道の「雪月花」などが事例として紹介されています。
観光列車化について考えると、2026年7月から観光列車としての運行を始めた大井川鐵道・井川線の例も参考になります。
井川線では観光列車化に伴って、原則として予約制・追加料金が必要となりましたが、一部列車には一般車両を残し、沿線住民向けのフリーパスも設定されています。
観光客を呼び込むことと、日常的に利用している住民の足を確保することをどう両立させるか。
大糸線でも、この点は重要になりそうです。
資料の中で触れられている白馬方面へのアクセスについては、現在の大糸線が抱える特徴もあります。
糸魚川~南小谷間はJR西日本の非電化区間、南小谷~白馬方面はJR東日本の電化区間です。そのため、現在の車両のままでは相互乗り入れが難しいと資料でも指摘されています。
一方、鉄道車両にはディーゼルエンジンで発電し、電気モーターで走行する「電気式気動車」や、蓄電池とディーゼルエンジンを組み合わせたハイブリッド車両があります。
JR西日本のDEC700や、JR東日本のGV-E400系、HB-E300系などがその例です。
もちろん、これらの車両を大糸線に導入すれば、そのまま問題が解決するわけではありません。車両の性能だけでなく、運行管理、保安装置、乗務員、車両基地など、会社をまたいだ多くの課題があります。
それでも「非電化だから白馬方面へ直通できない」という課題に対して、車両側から解決する可能性が全くないのか、という視点はあってもよいでしょう。
LRTは豪雪地帯での運行とコストが課題に
LRTについては、電化設備にかかる初期費用が大きな問題とされています。
資料の中では、3桁億円以上と書かれています。
また車両につていも1両あたり5億円程度が見積もられています。
導入費用以外にも大糸線の場合には冬の雪対策の問題もあります。
LRTの事例としては、札幌市電や富山地方鉄道の軌道線などがあります。これらは道路と一体となって走る区間が多く、都市部の交通として利用されています。
雪への対策としては、道路側からの除雪に加えて、融雪設備を設ける方法もあります。例えば温水などを利用して路面や軌道の雪を融かす方法も考えられます。
しかし、大糸線は都市部のLRTとは条件がかなり違います。
糸魚川~南小谷間は山間部を走る区間が多く、駅と駅の間も長くなっています。さらに現在の列車本数も都市部のLRTと比べると多くありません。
仮に大糸線をLRT化した場合、既存の鉄道用地を活用することになると考えられますが、道路から離れた場所では、道路の除雪と同じような方法をそのまま使うことはできません。
融雪設備を設置するとしても、山間部では気温が低く、雪を融かした水が再び凍結する可能性もあります。大量の雪を処理しながら、軌道を安全に維持するための設備や費用も必要になるでしょう。
もちろん、豪雪地帯だからLRTが成立しないということではありません。
ただ、大糸線の場合は「都市部のLRTを導入すればよい」という話ではなく、豪雪地帯の山間部で、長い区間の軌道をどのように維持するのかという点まで考える必要があります。
今回の資料では電化設備だけでも少なくとも3桁億円以上の投資が必要とされています。
導入費用に加えて、冬季の除雪・融雪や設備維持まで考えると、大糸線のLRT化はかなり大きな課題を抱えることになりそうです。
バスなら柔軟な運行が可能
一方、バス交通については、現在の道路を活用できることが大きな特徴です。
停留所を住宅地や公共施設など需要のある場所に設けやすく、鉄道よりも柔軟なダイヤ設定が可能とされています。
そして大きいのが、すでに実績があることです。
2024年度から大糸線で増便バスが運行されており、糸魚川~白馬間で国道148号線を中心としたバス運行が実際に行われています。
増便バスは、南小谷駅での乗り換えが不要であるため北陸新幹線を利用する観光客には好評のようです。
資料でも「運行可能」とされ、車両や待合所などへの投資は必要なものの、他の交通モードと比べて比較的安価に導入できるとされています。
また、一般道路を利用することで、白馬方面へ乗り継ぎなしでアクセスできることもバスの特徴です。
BRTなら鉄道とバスの中間的な存在に
BRTも比較されています。
BRTは専用道などを活用することで、通常のバスよりも高い速達性や定時性を目指す交通システムです。
大糸線の場合、鉄道敷を活用した専用道の整備は可能性があるものの、橋梁やトンネルなどの工事が課題になります。
また、国道148号線と大糸線が離れている区間もありますので利便性と速達性を天秤にかけて専用道を通るか一般道を通るかの選択が必要になる部分も出てくると思われます。
専用道の区間については、冬季の降雪対策も考慮する必要もあるでしょう。
さらに、全線を専用道化する場合には、少なくとも3桁億円以上の投資が必要とされています。
そのため、バスより高度な交通を実現できる一方、導入には大きな投資が必要になります。
DMVという選択肢も
最後がDMVです。
DMVは道路ではバスとして、線路では鉄道車両として走ることができる車両です。
徳島県の阿佐海岸鉄道で導入されていることで知られています。
阿佐海岸鉄道では、現在3台のDMV車両で運行していますが、車両故障により運休となる事も多く課題となっています。
大糸線の場合、バスモードと鉄道モードを組み合わせることで、乗り継ぎを減らせる可能性があります。
一方で、鉄道と大型二種の2種類の免許を持つ運転士が必要になるなど、運行面での課題もあります。
さらに、鉄道区間では線路の保守が必要となるため、運行経費が大きくなる可能性も指摘されています。
まだ「大糸線をどうするか」が決まったわけではない
今回の資料を見ていて注意したいのは、6つのパターンが示されたからといって、大糸線の将来について結論が出たわけではないということです。
むしろ、これまでは「大糸線をどう維持するか」という議論だったものが、
「糸魚川~南小谷間を結ぶ交通に、どのような機能が必要なのか」
というところまで議論が進んできた、と見ることができそうです。
鉄道を高度化する場合には大きな投資が必要。
観光列車には観光振興というメリットがある一方、生活交通としての役割に課題。
LRTやBRTも導入には大規模な工事が必要。
バスは比較的導入しやすいものの、鉄道とは違った特徴があります。
そしてDMVにはDMVならではの技術的・運行上の課題があります。
それぞれにメリットと課題があり、単純に「鉄道かバスか」という二択ではありません。
新潟県にとっては米坂線とのバランスも考慮する必要が
大糸線を鉄道として残す場合、それなりの投資が必要になります。
今回の資料では、鉄道高度化の場合、行き違い設備1か所に約20億円、新型車両は約5億円/両などの費用が示されています。LRTに至っては、電化設備だけでも少なくとも3桁億円以上とされています。
もちろん、これらをすべて一度に投入するという意味ではありません。しかし、現在の大糸線をそのまま維持するだけではなく、利便性を高めようとすれば相応の投資が必要になることは分かります。
ここで気になるのが、新潟県内で同じようにローカル線の将来が議論されている米坂線です。
米坂線は、災害により不通になった路線ですし、運行している会社(大糸線:JR西日本・米坂線:JR東日本)が異なるという点で大糸線とは状況が異なりますが、利用者が少ないことによる路線の存廃が検討されているという点では多くの共通点があります。
米坂線の輸送密度ですが、鉄道として運行していた時期(2017年度)のコロナ前の数値は、今泉~小国間で270人・小国~坂町間で175人となっていますので大糸線よりは利用者が多くなっています。
米坂線では現在、バスを有力な選択肢とする沿線自治体の意向を踏まえて協議が進められています。新潟県知事も9月の会見で、関係者のコンセンサスができつつあり「出口は近い」との認識を示しています。
一方ではバス転換を含めた公共交通の再構築を議論し、もう一方では100億円単位の投資も想定される交通モードを検討する。
大糸線についても、鉄道を残すことの意義だけでなく、それに必要となる費用を誰がどのように負担するのかという問題からは逃れられません。
特に糸魚川~南小谷間は新潟県と長野県にまたがるため、両県や沿線自治体、JR西日本などがどのような役割を担うのかも重要になりそうです。
芸備線などの議論とも重なる大糸線
大糸線の議論を見ていると、JR西日本のローカル線をめぐる他の地域での議論とも重なる部分があります。
特に、鉄道そのものを維持することだけを目的にするのではなく、地域に必要な移動手段をどう確保するのかという視点です。
ただし、路線ごとに人口、観光需要、道路事情、気象条件などは異なります。
大糸線についても、今回の6つの比較結果だけで将来を決めるのではなく、沿線住民が日常生活でどのように利用するのか、観光客がどのように移動するのか、そしてそれを将来にわたって維持できるのかというところまで見ていく必要がありそうです。
今回から大糸線の検討会議は、地域公共交通活性化再生法に基づく法定協議会へ移行しました。
今後は沿線自治体やJRだけでなく、交通事業者、道路管理者、利用者代表なども加わって、具体的な交通体系について検討が進められることになります。
大糸線の将来が「鉄道を残すのか、バスにするのか」という二択になるのか、それとも複数の交通手段を組み合わせるのか。
今後の議論にも注目したいところです。





