AI(人工知能)やクラウドサービスの普及に伴い、データセンター(DC)の需要が高まっています。一方で、建設計画を巡って地域住民との間で問題が生じるケースもあります。
千葉県印西市では、北総線の千葉ニュータウン中央駅前でデータセンターの建設計画を巡る反対運動が続いています。さらに、隣の印西牧の原駅前でもデータセンター2棟を含む再開発計画が明らかになりました。
印西市は駅周辺でのデータセンター建設を制限するため、地区計画の変更を進めています。
データセンターはデジタル社会を支える重要な施設ですが、駅前の土地は商業施設や住宅など、さまざまな用途が考えられます。地域住民にとっては、どのような施設が建設されるのかという問題でもあります。
ただ、こうした議論を見ていて、別の活用方法も考えられるのではないかと思いました。
それは、人口の少ないローカル線沿線にデータセンターを誘致し、施設から得られる税収を地域交通の維持に活用するという方法です。
駅前DCに反対運動続く千葉・印西市、隣の駅前でも建設計画…禁止のための地区計画変更完了前で「どうなってしまうのか」
読売新聞オンライン
芸備線のような人口の少ない地域に誘致できないか
例えば、芸備線の沿線には、駅周辺に住宅や商業施設があまり集まっていない地域があります。
もちろん、こうした地域ならどこでもデータセンターを建設できるわけではありません。大規模な電力を確保できることや、通信回線、災害リスク、土地の条件など、立地にはさまざまな制約があります。
また、データセンターも設備の監視や保守などに人員が必要です。緊急時の対応も考えると、一定の人口がある地域や、必要な人材を確保できる場所から近いことも重要になるでしょう。
それでも、駅前に大規模な商業施設や住宅を建設する需要が乏しい地域であれば、データセンターが土地利用の選択肢の一つになる可能性はあります。
データセンターは一般的な商業施設と比べて、多くの従業員や来客を必要とする施設ではありません。そのため、建設によって鉄道利用者が大幅に増えるとは限りませんが、地域に新たな税収をもたらす可能性があります。
そこで考えたいのが、データセンターの建物や設備にかかる固定資産税などを、ローカル線の維持に活用できないかということです。
固定資産税が増えても自治体の財政が豊かになるとは限らない
データセンターの誘致によって固定資産税が増えれば、自治体にとって新たな財源になるように思えます。
しかし、ここには地方交付税の仕組みという課題があります。
普通交付税の算定では、固定資産税などの税収が基準財政収入額に反映されます。原則として、標準的な税収の75%が算入される仕組みです。
そのため、ほかの条件が同じであれば、固定資産税の増加によって普通交付税が減る方向に働きます。
もちろん、実際の交付額は自治体の財政需要などによっても変わるため、税収が増えた分だけ交付税が減るという単純な仕組みではありません。
それでも、データセンターを誘致して税収を増やせば、その分だけ自治体が自由に使えるお金も増えるとは限らないのです。
リンク:地方交付税の仕組み(財務省)
ローカル線の維持には、線路や車両、信号設備などの維持管理費が必要です。利用者が少ない路線では、運賃収入だけで必要な費用を賄うことが難しく、自治体の支援が課題になることもあります。
せっかく企業を誘致して税収が増えても、地方交付税が減ることで、地域交通の維持に回せる財源が十分に増えないのであれば、企業誘致とローカル線維持を結びつける効果も限定されてしまいます。
都市計画税を活用する方法もありますが
固定資産税の増収が地方交付税の算定に影響するのであれば、別の方法も考えられます。
例えば、データセンターの誘致に合わせて都市計画上の位置づけを検討し、都市計画税を活用する方法です。
都市計画税は普通交付税の基準財政収入額には算入されないため、税収を地域に残すという観点では、固定資産税とは異なる特徴があります。
都市計画税は、都市計画事業として行う鉄道施設の整備にも活用できる可能性があります。
データセンターの誘致と合わせて、駅や鉄道施設の整備を地域の都市計画に位置づけることができれば、新たな税収を地域交通の基盤整備に活用する道も考えられます。
ただし、都市計画税は都市計画事業などに充てる目的税です。
都市計画事業には、鉄道などの都市計画事業がありますので制度上活用することは可能です。
ただ、区域を指定すれば自由に課税できるわけではなく、税収をローカル線の運行費用に直接充てられるとも限りません。
また、データセンターのサーバーなどの設備(償却資産)は都市計画税の課税対象ではありません。
それでも、人口の少ない地域に新たな施設を誘致し、地域のインフラ整備と公共交通の維持を一体的に考えることはできないでしょうか。
現行制度で難しいのであれば、地域交通の維持に必要な財源を確保するため、都市計画税や地方交付税の制度を含めて検討する余地があると思います。
事業所税の課税対象となる地域にも注目
もう一つ考えたいのが、事業所税です。
事業所税は、人口30万人以上の都市などが、都市環境の整備・改善に関する事業の費用に充てるために課す目的税です。道路や交通施設などの整備に関係する税ですが、普通交付税の算定では税収が基準財政収入額に算入されます。
ここで注目したいのが、平成の大合併によって市域が広がった自治体です。
合併によって、中心市街地から離れた人口の少ない地域や、ローカル線の駅がある地域まで、事業所税の課税対象となっている場合があります。市内全域が課税対象地域となるため、自治体が駅周辺だけを自由に課税対象に指定するという仕組みではありませんが、こうした地域にデータセンターを誘致できれば、事業所税の税収につながる可能性があります。
ただし、事業所税は普通交付税の算定に反映されるため、税収が増えても、その分だけ自治体の財源が増えるとは限りません。また、課税には事業所の床面積や従業者数などの要件があり、データセンターを建設すれば必ず課税されるわけでもありません。
それでも、人口の少ない地域に新たな事業所を誘致し、都市環境の整備や交通施設の整備に活用するという考え方は検討できるのではないでしょうか。
固定資産税、都市計画税、事業所税では、課税対象や使途、地方交付税の算定上の扱いが異なります。こうした制度の違いを踏まえながら、企業誘致による税収を地域の交通インフラの維持・整備にどう活かすかを考える必要がありそうです。
地方への企業誘致とローカル線の維持を両立させるには
データセンターの誘致によって地域に利益が生まれるのであれば、その利益を地域の暮らしに還元する仕組みも考えたいところです。
例えば、自治体がデータセンターの立地を進める際に、地域公共交通への貢献についても事業者と協議する方法が考えられます。また、企業誘致による税収増を地域交通の維持に活用する方針を自治体が明確にすることも、一つの考え方でしょう。
ただし、固定資産税は自治体の一般財源です。特定のデータセンターから得られた税収が、そのまま特定の鉄道路線に配分されるわけではありません。実現するには、自治体の予算や交通政策の中で継続的な支援を組み立てる必要があります。
さらに、地方交付税の算定による影響も考慮しなければなりません。地域が企業誘致によって得られる利益を確保し、交通インフラの維持にも活用できるような制度上の工夫が必要ではないでしょうか。
交付税の算定に影響しない都市計画税を活用するとしても解決すべき問題は出てきます。
もちろん、データセンターを誘致すればよいというわけではありません。電力や通信のインフラ整備に必要な費用、周辺環境への影響、地域住民との合意形成も重要です。地域の条件に合わない場所へ無理に誘致することは避けなければなりません。
それでも、人口の少ない地域で新たな産業を呼び込み、その経済的な利益を鉄道やバスの維持に活用するという考え方には、検討する余地があると思います。
ローカル線の維持を沿線自治体や利用者だけの問題として考えるのではなく、地域に新たな税収をもたらす企業誘致と結びつけることはできないでしょうか。
データセンターの立地を巡る議論をきっかけに、地方の産業振興と地域交通の維持を両立させる仕組みについても考えてみたいところです。

