2026年10月4日、長野県大町市のJR大糸線にある踏切で、男子中学生が特急「あずさ」にはねられ、死亡する事故が発生しました。
事故現場は、警報機も遮断機も設置されていない「第4種踏切」でした。
第4種踏切は全国に2,000か所以上残っており、安全性の向上が課題となっています。一方、踏切の廃止や設備の整備を進めるには費用がかかるほか、地域住民の理解を得る必要もあります。
事故を防ぐために何ができるのか、そして第4種踏切が現在も残っている背景について考えます。
※記事内のリンクから、関係機関の発表や資料を確認できます。
TBS NEWS DIG
大糸線の第4種踏切で特急「あずさ」と中学生が事故
信越放送などの報道によると、10月4日午後、長野県大町市のJR大糸線・花見踏切で、15歳の男子中学生が特急列車にはねられ、死亡しました。
現場は警報機と遮断機が設置されていない第4種踏切です。運輸安全委員会は調査を行う予定と報じられています。
今回の事故については、原因などの詳細が明らかになっていない部分もあり、事故の状況について断定することはできません。
ただ、列車が接近していることを音や遮断機で知らせる設備がない踏切では、通行する人が自ら列車の接近を確認する必要があります。
今回の事故をきっかけに、第4種踏切の安全対策について改めて考える必要がありそうです。
第4種踏切とは? 全国に2,000か所以上残る
踏切は、警報機や遮断機の設置状況などによって種類が分かれています。
国土交通省の資料では、踏切は次のように分類されています。
- 第1種踏切:警報機と遮断機がある踏切
- 第3種踏切:警報機はあるが、遮断機がない踏切
- 第4種踏切:警報機も遮断機もない踏切
なお、第2種踏切は現在設置されていません。
第4種踏切では、列車の接近を知らせる警報機も、通行を物理的に止める遮断機もありません。そのため、第1種踏切と比べて安全性の確保が課題となっています。
国土交通省が公表した資料では、2019年度末時点で全国に約2,600か所の第4種踏切が残っていると説明されていました。
踏切の廃止や第1種踏切への変更が進められてきたものの、すべての踏切で対策が完了しているわけではありません。
なぜ第4種踏切はなくならないのか
第4種踏切の安全性を高める方法としては、大きく分けて次のようなものが考えられます。
- 踏切を廃止する
- 警報機や遮断機を設置して第1種踏切に変更する
- 踏切ゲートなど、通行する人に一時停止を促す設備を設置する
このうち、踏切の廃止や警報機・遮断機の設置は、恒久的な安全対策となります。
しかし、こうした対策には時間や費用がかかります。
JR西日本は2023年9月の発表で、第4種踏切の廃止や第1種踏切への変更には多くの時間と費用が必要になると説明しています。
同社は、より短期間かつ低コストで設置できる安全対策として「踏切ゲート-Lite」の展開も進めてきました。
すべての踏切を一度に改良することが難しいなか、抜本的な対策と、比較的導入しやすい対策を組み合わせて安全性を高めようとしているわけです。
安全対策にかかる費用と、誰が負担するのかという問題
第4種踏切の安全性を高めるためには、警報機や遮断機を設置して第1種踏切に変更する方法があります。しかし、こうした整備には多額の費用がかかります。
仮に1か所あたり2,000万円以上かかるとすれば、全国に残る第4種踏切をすべて第1種化するには、単純計算でも数百億円規模の費用が必要になります。実際の費用は踏切の構造や設置条件によって異なるため、一律に計算できるものではありませんが、決して小さな負担ではありません。
さらに、踏切道改良促進法第18条では、指定踏切道の改良や管理に要する費用について、鉄道事業者と道路管理者が協議して負担することを原則としています。一方、保安設備の整備費用については、同条第2項で鉄道事業者が負担すると定められています。第1種踏切を維持するのには年間50万円~100万円かかるともいわれており経営の厳しい中小鉄道事業者には大きな負担となります。
踏切の安全対策は、設備を設置すれば終わりではありません。その後の維持管理にも費用がかかります。鉄道事業者だけでなく、道路管理者となる自治体などにとっても、継続的な財政負担が課題となる場合があります。
もちろん、国も対策を支援しています。国土交通省は第4種踏切の第1種化を進めるほか、比較的簡易に実施できる安全対策設備の導入も支援する方針を示しています。
それでも、国の補助があることと、すべての踏切を直ちに改良できることは同じではありません。補助の対象や条件、事業者の負担、地域の事情などを踏まえ、対策を進めていく必要があります。
安全性を高めるために費用をかけることは重要です。しかし、費用負担の調整に時間がかかれば、その間も危険性のある踏切が残り続けることになります。
第4種踏切の問題は、安全対策の必要性だけでなく、整備費用と維持管理費用を誰がどのように負担し、限られた予算のなかでどの踏切から対策を進めるのかという問題でもあるのです。
踏切は原則として新設できない 既存の踏切をどうするか
踏切の問題を考えるうえでは、鉄道に関する技術上の基準を定める省令第39条も重要です。
同条では、鉄道と道路の平面交差を原則として禁止しています。例外は認められているものの、踏切を自由に新設できるわけではありません。
実際には、JR可部線の延伸区間やJR根室本線の恋問踏切など、新設が認められた事例もあります。しかし、こうした事例があるからといって、一般的に踏切の新設が容易になったわけではありません。
そのため、第4種踏切の対策を考える場合、基本的には既存の踏切を廃止するのか、それとも警報機や遮断機などを設置して安全性を高めるのかという選択になります。
ここで課題になるのが費用負担です。
踏切道改良促進法では、指定踏切道の改良や管理にかかる費用について、道路管理者と鉄道事業者が協議して負担する仕組みが設けられています。一方、保安設備の整備費用については、同法第18条第2項に鉄道事業者が負担すると定められています。
設備を設置する際の費用だけでなく、その後の維持管理費用も考慮しなければなりません。道路管理者である自治体などにとっては、こうした負担が対策を進めるうえでの課題になる可能性があります。
しかし、踏切の新設が原則として認められず、廃止すれば地域住民の利便性が低下する場合もあるのであれば、単に廃止を求めるだけでは解決できないケースもあるでしょう。
鉄道事業者が保安設備の整備や維持管理を担い、国や自治体の補助制度も活用しながら安全対策を進める。そうした役割分担を検討することも必要ではないでしょうか。
もちろん、すべての第4種踏切を第1種踏切に変更することが現実的とは限りません。利用状況や周辺道路、費用などを踏まえ、踏切ごとに適切な対策を選ぶ必要があります。
安全性の向上と地域の利便性を両立させるためには、どのような費用負担の仕組みが望ましいのか。第4種踏切の問題は、鉄道事業者と道路管理者の双方にとって、今後も検討が必要な課題だといえそうです。
踏切を廃止すれば解決する? 地域の利便性という問題
では、第4種踏切をすべて廃止すればよいのでしょうか。
安全面だけを考えれば、危険性のある踏切をなくすことは有効な対策です。
しかし、地域によっては、踏切が線路の反対側にある田畑や住宅、道路などへ移動するための重要な通路になっていることも考えられます。
踏切を廃止した結果、近くに代わりの通路がなければ、住民は遠回りをしなければならなくなります。
特に徒歩や自転車で移動する人、高齢者などにとって、迂回する距離が長くなることは大きな負担になりかねません。
一方、警報機や遮断機を設置する場合にも、設備の整備費用だけでなく、その後の維持管理が必要になります。
つまり、第4種踏切の対策は、単純に設備を設置するか、踏切を廃止するかという二択だけでは解決しにくい問題です。
地域の安全を確保しながら、住民の移動手段をどう維持するか。鉄道事業者と自治体、地域住民が一緒に考えていく必要があります。
事故を受け、大町市とJR東日本は踏切の廃止を目指す方針
今回の事故を受け、長野県大町市とJR東日本長野支社は10月6日に対応を協議しました。
長野放送の報道によると、事故現場を含む市内5か所の第4種踏切について、住民の理解を得ながら廃止を目指す方針を確認したということです。
事故を受けて具体的な対応が検討されることになりましたが、実際の廃止に向けては、地域住民の意見や代替となる通路の確保なども重要になりそうです。
第4種踏切の安全対策を進めるために
第4種踏切の安全対策は、今回の事故が起きた大糸線だけの問題ではありません。
全国各地に残る踏切について、危険性や利用状況を把握し、優先順位を付けながら対策を進めていく必要があります。
また、踏切の廃止を進める場合には、単に通行できなくするのではなく、必要に応じて代替となる通路を確保するなど、地域の生活への影響も考慮することが重要です。
踏切の安全性を高めることと、地域住民の利便性を維持すること。その両方を実現するのは簡単ではありません。
それでも、事故が起きてから対策を考えるだけでなく、危険性のある踏切を事前に把握し、関係者が協議して対策を進めることが求められます。
国土交通省の「踏切道改良促進法」でも、踏切の改良を促進することによって交通事故の防止や交通の円滑化を図ることが目的とされています。
今回の事故を一つの契機として、全国に残る第4種踏切の安全対策がどのように進んでいくのか、引き続き注目したいと思います。

