JR西日本と和歌山県、沿線自治体などで構成する「紀勢本線活性化協議会 新宮白浜区間部会」は、紀勢本線白浜駅~新宮駅間の利用促進に向けた追加施策を発表しました。
この区間は2025年5月にJR西日本が公表した「ローカル線の課題」において、輸送密度が2,000人未満の区間として公表され、地域と鉄道事業者が路線の維持・活性化に向けた協議を続けています。
今回発表された内容を見ると、観光利用だけではなく、通勤・通学利用の拡大にも力を入れる内容となっています。しかし一方で、部会が掲げる数値目標を見ると「かなり高い目標ではないか」と感じる人も少なくないでしょう。
出典:JR西日本資料
数値目標はどれくらい?
紀勢本線(白浜駅~新宮駅)で設定されている数値目標と過去の実績(特急列車の利用者数は特急券発売実績より推定)は次の通りです。数値は、この区間の輸送密度が2,000程度であった2007年の実績より算出されています。
- 目標値
| 駅 | 乗車人員 | 特急列車 | ||
| 新宮方面 | 和歌山方面 | 合計 | ||
| 白浜 | 910 | 40 | 40 | |
| 周参見 | 200 | 0 | 50 | 50 |
| 串本 | 450 | 20 | 190 | 210 |
| 古座 | 260 | 0 | 30 | 30 |
| 太地 | 160 | 0 | 20 | 20 |
| 紀伊勝浦 | 720 | 140 | 310 | 450 |
| 新宮 | 1,290 | 240 | 240 | |
| 合計 | 3,990 | 200 | 840 | 1,040 |
- 2007年度(輸送密度:1,927)
| 駅 | 乗車人員 | 特急列車 | ||
| 新宮方面 | 和歌山方面 | 合計 | ||
| 白浜 | 906 | 39 | 39 | |
| 周参見 | 195 | 3 | 47 | 50 |
| 串本 | 441 | 14 | 185 | 199 |
| 古座 | 253 | 1 | 28 | 29 |
| 太地 | 154 | 0 | 6 | 6 |
| 紀伊勝浦 | 711 | 140 | 307 | 447 |
| 新宮 | 1,285 | 232 | 232 | |
| 合計 | 3,945 | 197 | 805 | 1,002 |
- 2019年度(輸送密度:1,085)
| 駅 | 乗車人員 | 特急列車 | ||
| 新宮方面 | 和歌山方面 | 合計 | ||
| 白浜 | 708 | 18 | 18 | |
| 周参見 | 114 | 1 | 17 | 18 |
| 串本 | 328 | 5 | 79 | 84 |
| 古座 | 124 | 1 | 19 | 20 |
| 太地 | 99 | 1 | 17 | 18 |
| 紀伊勝浦 | 342 | 76 | 118 | 194 |
| 新宮 | 920 | 139 | 139 | |
| 合計 | 2,635 | 102 | 389 | 491 |
- 2023年度(輸送密度:935)
| 駅 | 乗車人員 | 特急列車 | ||
| 新宮方面 | 和歌山方面 | 合計 | ||
| 白浜 | 626 | 16 | 16 | |
| 周参見 | 98 | 1 | 11 | 12 |
| 串本 | 250 | 3 | 63 | 66 |
| 古座 | 107 | 0 | 13 | 13 |
| 太地 | 91 | 0 | 13 | 13 |
| 紀伊勝浦 | 324 | 77 | 108 | 185 |
| 新宮 | 828 | 105 | 105 | |
| 合計 | 2,324 | 97 | 313 | 410 |
追加された利用促進策とは?
WESTERポイントバック
特急停車駅(白浜・周参見・串本・古座・太地・紀伊勝浦・新宮)からICOCAを利用した場合に運賃の10%をポイントバックします。実施期間は、2026年8月1日(土)~9月30日(水)となっています。
公共交通でアクセス可能な社会科見学におすすめ施設の紹介
古座川町の公式ホームページで、公共交通でアクセス可能な施設の紹介を行っています。これにより社会科見学での利用を増やすことを考えています。
リンク:20260616.pdf
通勤モニター募集
白浜駅~新宮駅間で新規に通勤定期券を購入する方を対象に1か月間の定期券の金額を助成し、アンケートを行うことにしています。
紀勢本線(白浜駅~新宮駅)では、他にも利用促進策を行っています。
日常利用を増やすのは簡単ではない
ただ、ここで気になるのが沿線地域の現状です。
紀勢本線白浜駅~新宮駅間は、美しい海岸線や豊かな自然に恵まれた魅力ある路線ですが、その一方で人口減少や少子高齢化が進んでいます。
地方では自動車が生活に欠かせない地域が多く、通勤・買い物・通院なども車が中心です。
高校生など学生の利用は一定数ありますが、少子化の影響で通学利用そのものが年々減少していくことも避けられません。
また、沿線には都市部のような大規模な住宅地や企業集積があるわけではなく、「日常利用を大幅に増やす」というのは決して簡単なことではありません。
観光需要だけでは限界も
alt="那智の滝" class="wp-image-10898"/>もちろん、紀勢本線には観光という大きな強みがあります。
白浜温泉、アドベンチャーワールド、熊野古道、那智の滝、熊野那智大社など、日本を代表する観光資源が数多くあります。
インバウンド需要も徐々に回復しており、特急「くろしお」を利用して関西空港や大阪方面から訪れる旅行者も期待できます。
特急「くろしお」は大阪・京都方面から白浜や那智勝浦方面への主要なアクセス手段となっていますが、観光客は季節や曜日による変動が大きく、年間を通じて安定した利用者数を確保するのは容易ではありません。
イベントを開催した日は利用者が増えても、それが日常的な利用増加につながるとは限らないためです。そのため、継続的な利用につながる仕組みづくりが重要になります。
一方で、イベント列車や臨時列車による集客効果も決して小さくありません。個人的には、こういったイベントでの集客による利用者の増加も結構大きいのではと思います。
そのため、観光施策だけで目標を達成するのは難しく、通勤・通学利用も同時に伸ばす必要があります。
特急「くろしお」の競争力の低下も・・・
alt="振り子機能のない287系 特急くろしお" class="wp-image-10897"/>観光需要を考えた場合には、関西方面からの特急「くろしお」での利用の取り込みが重要となりますが、利用の落ち込みにより競争力が低下していることも見逃せない状況にあります。
- 高速道路の充実
紀勢自動車道などの延伸により、この地域への自動車・高速バスでの利便性が向上しました。特に、観光目的での自動車の利用は荷物の問題などを考えると鉄道よりも優位性が高いため家族連れの利用者を中心に自家用車の利用の方が便利になっています。また、高速バスの運賃は鉄道より安いため高速バスの利用を考える人が増えているものと思います。
- 特急「くろしお」の減便
紀勢本線の特急「くろしお」ですが、2005年の時刻表では新宮駅発着の列車が10往復設定されています。一方、2026年度のダイヤ改正での新宮発着の「くろしお」は5往復+毎日運転の臨時列車1往復の6往復と大きく本数を減らしています。これは、利用者の少ない白浜駅より南の区間で減便を行ったためですが利用者にとっては使いにくい状況となっています。
- 最高速度の130キロ→110キロへの引き下げ・振り子機能の停止
紀勢本線では、381系・283系といった振り子装置が搭載された車両で特急列車の高速化を図っていましたが、コストの問題もあり381系は振り子装置のない287系・289系で置き換えられました。また、紀勢本線での最高速度も130キロから110キロに引き下げとなっています。これにより、新大阪駅~新宮駅間の所要時間が約4時間→約4時間30分になりました。これにより鉄道の速達性の魅力が下がり自動車・高速バスの利用に移行していると考えられます。
目標値はかなり高く感じる
今回の資料では利用者数の目標も示されています。
もちろん目標は高く設定した方が、地域全体で利用促進に取り組む意識は高まります。
しかし、現在の沿線人口や少子高齢化、自家用車への依存といった状況を考えると、短期間で大幅な利用増を実現するのはかなりハードルが高いようにも感じます。特に気になるのが2007年度と2023年度の実績を比較した際に、全体の利用者数が6割程度に落ち込んでいることです。一方で、特急列車の利用者数が4割程度への落ち込みとなっており減少幅が大きいことです。特急列車は利用者1人当たりの単価が高いため特急列車の利用の落ち込みは路線の収益に大きな影響を与えていると思われます。しかし、特急「くろしお」の競争力は以前より落ちているため普通列車以上に利用の増加を図ることは困難であると思います。
また、特急列車の利用者の大半は、ビジネス利用・観光利用ですがコロナ後の出張目的の利用の減少を考えるとビジネス利用の今後の利用拡大に期待するのは難しいと思います。
そうなると観光需要がカギとなりますが、特急列車の本数の減少・所要時間の増大は大きな壁となるのではないでしょうか。
こうした状況を踏まえると、鉄道利用の増加には、観光だけでなく「普段の生活で鉄道を選んでもらう」ことを目指しての今回の支援策だと思われます。
その意味では、今回追加された通勤・通学利用への支援策は重要な取り組みと言えるでしょう。
JR西日本が公表したローカル線の収支状況では、この区間は輸送密度2,000人未満の区間に位置付けられています。利用者数を大きく伸ばすには、現在の利用状況から見ると相当な増加が必要となるため、今回掲げられた目標は非常に意欲的なものと言えるでしょう。
まとめ
一方で、今回の追加施策からは、JR西日本だけに任せるのではなく、自治体や地域全体で鉄道を支えていこうという姿勢が伝わってきます。
ローカル線を取り巻く環境は全国的に厳しく、多くの路線で利用者減少が続いています。
今回取り上げた紀勢本線(白浜駅~新宮駅)については、2027年度まで利用促進策を集中的に実施する予定となっており、その成果が今後の路線の方向性を左右する可能性があります。
だからこそ、イベントや観光施策だけで終わらせるのではなく、「地域の公共交通としてどう維持していくか」という視点も今後ますます重要になってくるでしょう。
今回の追加施策がどこまで利用増につながるのか、そして掲げられた目標値にどこまで近づけるのか。
今後の取り組みと利用実績に注目していきたいところです。



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