鉄道会社や路面電車事業者にとって、運転士の確保は大きな課題の一つです。
そんな中、富山地方鉄道が転職希望者を対象とした「鉄道車両運転体験会」を10月24日に開催します。
実際の鉄道車両を運転できるだけでなく、現役運転士との座談会も予定されています。
一方、岡山県の岡山電気軌道でも、9月26日に「二刀流!本気(マジ)な運転体験付き選考説明会」が開催されました。
今回は、鉄道会社が「運転体験」を採用活動に取り入れる取り組みについて見てみます。
10月24日(土)開催!「富山地鉄発!鉄道車両運転体験会」参加者を募集します
富山地方鉄道ホームページ
富山地方鉄道「鉄道車両運転体験会」
富山地方鉄道は、2026年10月24日(土)に「富山地鉄発!鉄道車両運転体験会」を開催します。
対象となるのは、鉄道業界への転職を希望する40歳未満の人です。
募集人数は10名程度で、開催時間は午前9時から正午まで。
当日は実際の鉄道車両を運転する体験のほか、現役運転士との座談会も予定されています。
富山地方鉄道では、運転体験を通じて、求人票だけでは分からない「職場の雰囲気」や「仕事のやりがい・リアルな日常」を知ってもらうことを狙っています。
富山地方鉄道では以前から鉄道・軌道運転士の採用を行っており、運転免許を持っていない人についても、駅員として勤務し、適性に応じて養成所で免許を取得して運転士を目指すルートを案内しています。
今回の運転体験会も、鉄道運転士という仕事を実際に体験してもらうことで、転職先として鉄道業界を選択するきっかけにする狙いがあると考えられます。
富山地方鉄道では今後の鉄道を担う人材が必要
富山地方鉄道では、2027年度から「みなし上下分離方式」に移行し、本線・立山線・不二越・上滝線の全線を存続させる方向となっています。
今後も鉄道線を維持していくためには、車両や線路などの設備だけでなく、実際に列車を運転する運転士をはじめとした人材の確保も重要になります。
富山地方鉄道の鉄道線をめぐる今後の方向性については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
岡山電気軌道では2023年から「運転体験付き説明会」
実は岡山県の岡山電気軌道では、富山地方鉄道に先行して、運転士の採用活動に「運転体験」を取り入れています。
日本経済新聞によると、岡山電気軌道は2023年から、運転体験付きの採用説明会を始めました。
採用説明会で実際に路面電車を運転してもらうという、日本で初めての試みだったとされています。
鉄道会社の採用活動では、会社説明や仕事内容の紹介、適性検査などが行われますが、岡電の場合はそこに「実際に車両を運転する」という体験を加えました。
運転士を目指す人にとっては、説明を聞くだけでなく、自分自身が運転席に座って路面電車を動かすことで、仕事を具体的にイメージできます。
岡電では、その後も運転体験を採用活動に取り入れています。
2026年9月26日には「二刀流!本気(マジ)な運転体験付き選考説明会」を開催しました。
この説明会では、「二刀流」の説明、適性検査、路面電車の運転体験を実施。募集人数は午前・午後各10名、合計20名でした。
つまり、岡電では運転体験を一度限りのイベントにするのではなく、採用につながる取り組みとして継続していることになります。
「運転してみたい」を「仕事にしてみたい」へ
路面電車や鉄道が好きな人の中には、「一度でいいから運転してみたい」と思ったことがある人もいるでしょう。
しかし、運転士を職業として考えた場合、実際の仕事内容がどのようなものなのか、外から見ているだけでは分かりにくい部分があります。
そこで実際に運転を体験してもらい、仕事への理解を深めてもらう。
岡電の取り組みは、単に鉄道ファン向けのイベントを開催するというものではなく、「運転してみたい」という興味を、運転士という仕事への関心につなげる採用活動と見ることができます。
現在の岡電でも、採用説明会と運転体験を組み合わせた取り組みが続いています。
2026年の「二刀流!本気(マジ)な運転体験付き選考説明会」も、その流れの一つです。
富山地方鉄道が今回、転職希望者を対象に「鉄道車両運転体験会」を開催することを考えると、岡電の取り組みは先行事例の一つとして注目できます。
過去には、さらに踏み込んだ取り組みも
運転士の確保という点では、過去にいすみ鉄道が行ったユニークな取り組みもあります。
2010年、当時社長だった鳥塚亮氏の発案で、一般社会人を対象に「自社養成運転士」の訓練生を募集しました。
大きな特徴は、運転士になるための訓練費用を本人が負担する仕組みだったことです。
当時の募集では、訓練費用は700万円。最終的に4人が採用されました。
鳥塚氏は後に、この制度について「自社養成運転士制度」をいすみ鉄道時代の一番の思い出として挙げています。訓練を受けた人が実際に運転士として乗務する姿を見て、「人材を作った」ことに大きな意味を感じていたと振り返っています。
現在はいすみ鉄道でこの方式が行われているわけではありませんが、鉄道会社が運転士を確保する方法としては非常に特徴的な事例でした。
富山地方鉄道の「運転体験会」や岡山電気軌道の「運転体験付き選考説明会」と比べると、いすみ鉄道の取り組みは、単に仕事を知ってもらうだけでなく、運転士になるための人材育成そのものに踏み込んだものだったと言えます。
「運転してみたい」を採用につなげられるか
鉄道車両を実際に運転してみたいという人は、鉄道ファンの中にも少なくないでしょう。
しかし、鉄道会社の運転士という仕事については、外から見ているだけでは分からない部分も多くあります。
実際に運転体験をして、現役運転士から話を聞くことができれば、
「鉄道が好きだから働いてみたい」
という段階から、
「運転士の仕事を職業として考えてみよう」
という段階へ進むきっかけになる可能性があります。
特に転職希望者を対象にした富山地方鉄道の取り組みは、鉄道ファンだけを対象にしたイベントとは性格が違います。
「鉄道会社で働いてみたいけれど、仕事内容がよく分からない」という人に、実際の仕事を知ってもらう場としても意味がありそうです。
運転体験だけで運転士不足が解消するわけではない
もっとも、こうしたイベントを開催したからといって、すぐに運転士不足が解消するわけではありません。
運転士になるためには、採用後の教育や適性検査、必要な免許の取得などもあります。
富山地方鉄道も、過去の採用案内で、免許を持っていない人については駅員として勤務したうえで、適性に応じて養成所で免許を取得する仕組みを案内しています。
それでも、まず「鉄道の運転士という仕事を知ってもらう」という入口を広げることは、人材確保に向けた一つの方法になるでしょう。
岡山電気軌道と富山地方鉄道の取り組みを見ると、鉄道会社側も「求人を出して応募を待つ」だけではなく、仕事そのものを体験してもらい、採用につなげる取り組みを始めていることが分かります。
今後、こうした「運転体験付き採用イベント」がほかの鉄道会社にも広がっていくのか、注目したいところです。


