JR芸備線の備中神代駅~備後庄原駅間では、2025年から鉄道やバスを使ったさまざまな実証実験が行われてきました。
2026年7月から始まったバスによる実証実験も、9月30日をもって終了。
11月には、これまでの実証結果を踏まえた「再構築方針の骨子案」が示される予定です。
いよいよ芸備線の今後について、具体的な方向性が見えてくることになります。
これまで芸備線ではさまざまな実証を実施
芸備線の実証実験は、今回のバスだけではありません。
2025年には土曜・休日を中心とした試験増便が行われ、その後、増便の延長も実施されました。
さらに、増便延長の一方で、新見発の最終列車をタクシーによる代行輸送にするという措置も行われています。
2026年4月~6月にも土曜・休日の増発列車が設定されました。
しかし、増便による経済効果を検証すると、経費の半分程度という結果でした。
そして今回は、鉄道ではなくバスによる実証です。
こうして振り返ると、「列車を増やした場合」と「バスにした場合」の両方を検証する段階まで進んできたことが分かります。
11月の再構築方針の骨子案は厳しい内容か
今回の実証結果を踏まえ、11月には再構築方針の骨子案が示される予定です。
もちろん、現時点で「バス転換が決まった」というわけではありません。
ただ、これまでの実証結果を考えると、私は客観的にはバスなど鉄道以外の交通モードへの転換を軸とした提言になる可能性が高いのではないかと考えています。
利用者数や経費などを考えれば、現在の利用状況で鉄道を維持することの難しさは否定できません。
では、鉄道にはバスに対して何のメリットもないのでしょうか。
鉄道がバスより優れているところ
鉄道の強みとして、まず挙げられるのが大量輸送です。
1本の列車で、一般的な路線バスより多くの乗客を運ぶことができます。特に通学時間帯など、利用者が集中する場合には鉄道のメリットがあります。
残念ながら現在の備中神代~備後庄原間の輸送密度から見た場合キハ120形1両で運べてしまう輸送量となっているのも事実です。
JR西日本が発表している2025年度の輸送密度は次の通りです。
| 備中神代 ~東城 | 東条 ~備後落合 | 備後落合 ~備後庄原 | 備後庄原 ~三次 | 三次~下深川 | 下深川~広島 |
| 83 | 25 | 89 | 384 | 1,032 | 9,164 |
また、速達性や定時性も鉄道の強みです。
もちろん芸備線は古い路線でもあり線形が悪く、地形の影響で保線が困難な部分が多いため厳しい速度制限が設定されている区間などもあり、「鉄道だから必ずバスより速い」と単純には言えません。それでも、道路の渋滞などの影響を受けにくいことは鉄道の大きな特徴です。
そして個人的に意外と大きいと思うのが、JRのネットワークに組み込まれていることです。
JRの路線図や経路検索に表示され、新幹線や他の在来線と一つのネットワークとして検索できる。
これは普段鉄道を利用しない人にとっても、「この地域には鉄道がある」と分かりやすいことにつながります。
ただし、こうしたメリットがあるからといって、利用者が少ない路線をJR西日本だけで維持し続けるべきだ、ということにはならないでしょう。
鉄道を残すなら地域の負担も必要
私は、もし沿線地域に「それでも鉄道を残したい」という希望があるのであれば、その選択肢まで否定する必要はないと思っています。
例えば、鉄道施設を自治体などが保有して列車の運行を事業者が担う上下分離方式や、第三セクターなど、JR西日本が単独で維持する以外の方法があります。
ただし、こうした方法を選択すれば、当然ながら地域側の持ち出しが発生します。
実際、JR北海道の黄線区でも、鉄道を維持するための上下分離をめぐって、施設の維持費などを誰が負担するのかが問題になっています。
鉄道を残すということは、「線路を残す」というだけではありません。
施設を維持し、車両を用意し、運転士などの人材を確保し、日々列車を走らせる必要があります。
その費用を誰が負担するのかという問題は避けて通れません。
バスに転換すれば問題は解決するのか
では、鉄道をバスに転換すれば問題は解決するのでしょうか。
これも、そう簡単ではありません。
鉄道を廃止した後、代替交通としてバスを走らせる場合でも、利用者が少なければバス事業者にとって負担になります。
最近、これを象徴するような事例がありました。
2018年3月に廃止されたJR三江線では、翌月から鉄道に代わるバスなどの代替交通が運行されました。
ところが、2026年9月には、その代替交通の一つである石見交通の「江津川本線」について、2027年3月末で廃止する意向が沿線自治体に伝えられていたことが明らかになりました。
三江線が廃止された時点では、「鉄道をバスに置き換えることで地域の交通を維持する」という考え方がありました。
しかし、それから約9年が経過し、今度はそのバス路線自体の存続が問題になっています。
もちろん、三江線と芸備線では事情が異なります。
また、今回の江津川本線の問題だけをもって「バス転換しても意味がない」とすることもできません。
ただ、ここから分かるのは、鉄道からバスに転換すれば、それだけで将来の公共交通が保証されるわけではないということです。
バスもまた、運転士不足や利用者減少、燃料費・人件費の上昇など、さまざまな問題を抱えています。
誰が地域の公共交通を支えるのか
そう考えると、芸備線の問題は「鉄道を残すか、バスにするか」だけではないのかもしれません。
鉄道を残すなら、そのための費用を誰が負担するのか。
バスに転換するなら、そのバスを将来にわたって誰が維持するのか。
結局のところ、どちらを選んでも地域の公共交通を誰が支えるのかという問題に行き着きます。
以前、「JRは民間企業だから自治体が公共交通を用意すべき?」という記事でも、国鉄改革から現在のJR西日本のローカル線問題までを考えました。
JRは現在は民間企業ですから、利用者が極端に少ない鉄道路線を無条件に維持し続けることにも限界があります。
一方で、鉄道を廃止してバスにしたとしても、バス事業者が永遠に運行してくれる保証があるわけではありません。
だからこそ、自治体、国、鉄道会社、バス事業者、そして地域住民が、それぞれどのような役割を担うのかを考える必要があります。
11月の骨子案に注目
9月30日でバスの実証実験が終了し、これまで行われてきた芸備線の実証も一つの区切りを迎えました。
11月に示される再構築方針の骨子案では、芸備線の将来についてどのような方向性が示されるのでしょうか。
現時点では、私はバスなどへの転換を軸とした内容になる可能性が高いと予想しています。
ただ、もし地元が「鉄道を残したい」と考えるのであれば、上下分離や第三セクター化などを含め、鉄道を残すために地域が相応の負担をするという選択肢も議論してよいと思います。
一方で、バスへの転換を選ぶのであれば、「バスにすれば終わり」ではなく、10年後、20年後にもその交通を維持できる仕組みを考える必要があります。
芸備線の問題は、単純に「鉄道かバスか」という二択ではありません。
地域の公共交通を将来にわたって誰が支えるのか。
11月の骨子案は、そのことを考える上でも注目したいと思います。

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