鉄道の維持に防衛予算を充てる方向で検討されていると、47NEWSが報じました。
鉄道は通勤・通学や観光など、地域の移動を支える交通機関です。それだけでなく、災害時の輸送や物資の輸送など、地域を越えた役割も担っています。
今回の検討が具体化すれば、存続に向けた議論が続くJR北海道の黄線区や函館本線の新函館北斗~長万部間、道南いさりび鉄道にとっても、影響があるかもしれません。
ただし、現時点では鉄道の維持に防衛予算を充てる方向での検討であり、特定の路線への支援や存続が決まったわけではありません。
【独自】防衛関連経費で鉄道の整備検討 有事に備え物資の輸送網確保へ
共同通信47NEWS
鉄道の維持に防衛予算を充てる狙いは?
鉄道は、日常の旅客輸送だけでなく、広域的な人の移動や貨物輸送を支える社会インフラでもあります。
特に北海道では、都市間の距離が長く、鉄道が地域間を結ぶ重要な交通手段となっています。また、鉄道貨物輸送は、食料品や生活必需品などを運ぶ物流網の一部でもあります。
こうした鉄道網を維持することが、安全保障上も意味を持つという考え方でしょう。
もっとも、防衛上の必要性があることと、すべての鉄道路線を従来どおり維持することは、必ずしも同じではありません。
どの路線がどのような役割を担い、維持にどれだけの費用が必要なのか。防衛面での必要性と、地域交通としての必要性を分けて考えることも重要になりそうです。
JR北海道の黄線区はどうなる?
JR北海道は、単独では維持が困難な路線について、沿線自治体などと維持のあり方を協議しています。
2026年4月には、黄線区8線区について、鉄道施設の維持管理を自治体側が担い、JR北海道が列車の運行を担う「上下分離方式」も視野に入れる方針を示しました。
黄線区には、宗谷本線の名寄~稚内間や石北本線、釧網本線、花咲線などが含まれます。地域の生活交通であると同時に、観光や広域移動を支える路線でもあります。JR北海道は黄線区については上下分離を沿線自治体に要望しましたが話し合いは膠着し、上下分離案を撤回し国が間に入った協議会で今後のあり方を検討することになっています。
10月9日に「黄線区の持続可能な運営の在り方に関する協議会」の初会合が開かれ8つの路線ごとに「ワーキンググループ」を設置し話し合いを行っていくことになっています。
防衛予算を活用できれば、自治体や鉄道事業者の負担を軽減できる可能性があります。
一方で、国の防衛の観点で見た場合、貨物輸送のルートになっている路線(室蘭本線・石北本線)や国境がある都市に繋がる路線(宗谷本線・花咲線)は防衛予算の対象となる可能性が高いですが、それ以外の路線についてはあまり状況が変わらない可能性もあります。
函館本線 函館~小樽間も状況が変わる可能性も
新函館北斗~長万部間は貨物専用線への移管の予定ですが・・・
函館本線の新函館北斗~長万部間も、今後の北海道の鉄道網を考えるうえで注目したい区間です。
函館本線の新函館北斗~長万部間は、北海道新幹線開通により貨物専用線となる方向で検討されています。
しかし、貨物専用線となった時に保線作業等についてどうするかという点で問題が出てきています。
経営分離後は、県が主体となる第三セクター会社が路線の維持管理を行うことになりますが北海道・沿線自治体には鉄道の維持管理のノウハウがありませんので外部の組織に委託することになると思われます。
現在は路線を保有しているJR北海道が保線を行っていますが、北海道新幹線札幌延伸後は新幹線の保線作業に人員が必要となるため請け負うのは難しいとの意思表示をしています。
もしも、防衛予算を充てるということになれば、自衛隊の業務の一環として路線の維持管理を行うことについても検討することが可能になると思われます。
長万部~小樽間(山線)は廃線の方向ですが
一方、長万部~小樽間については路線の廃線の方向で話が進んでいます。
この区間については貨物輸送は室蘭本線経由で可能ですので私自身も廃線の方向に進むと思っていました。
長万部~小樽間は1980年代に貨物輸送については室蘭本線経由に変更されましたが、貨物輸送に対応できる設備は残っていたため2000年の有珠山噴火の際には貨物輸送に使われました。
しかし、その後の設備の簡素化により現在は貨物列車を走らせることはできなくなっています。2026年8月の大雨で室蘭本線が不通となった際に山線をなぜ使わないのかという意見が出てきたのを覚えている人も多いと思います。
有事の際の物資の輸送に使うのであれば、複数のルートを持っておくことは好ましいことですので防衛予算を使って貨物線として残す選択肢も出てくるでしょう。
旅客についてはまた別の議論が
防衛予算が使われることになれば、貨物については存続の可能性が高くなると思いますが、旅客部門についてはまた別の話になるでしょう。
函館本線は黄線区と違い北海道新幹線開業に仮に並行在来線として旅客部門を残したとしてもある程度の数の利用者が新幹線利用に変わってしまいます(山線についてはあまり変わらない可能性も考えられますが)。
また、JR北海道は経営分離を行い北海道・沿線自治体による第三セクターとなりますので従業員を確保する必要があります。
旅客輸送を防衛予算で補うことが出来たとしても(この点も難しいような気がしますが)、必要な人員の確保という点が問題になるでしょう。国が運営を行う形も考えられますが、国鉄の復活も分割民営化した経緯から考えると難しいような気がします。
また、防衛上関係が少ないと思われる区間の旅客部門の費用を防衛費で出すことの整合性も問われるでしょう。
道南いさりび鉄道への影響は?
道南いさりび鉄道は、北海道新幹線の開業に伴いJR北海道から経営分離された、五稜郭~木古内間37.8kmを運営する第三セクター鉄道です。
地域の通勤・通学輸送を担う一方、貨物列車も走行する路線であり、旅客輸送だけでは測れない役割を持っています。
仮に道南いさりび鉄道が貨物線も含めて廃止となった場合、本州からの鉄道路線は途切れてしまうことになるため、この区間を存続させることは北海道の貨物輸送を考える上で重要なポイントとなります。
そのため、鉄道施設を維持する費用を誰が負担するのかという問題は、地域交通だけでなく、鉄道貨物輸送の維持という観点からも考える必要があります。
防衛予算による支援が、こうした路線の施設維持や更新費用にも適用されるのであれば、自治体の負担を考えるうえで新たな選択肢となるかもしれません。
ただし、道南いさりび鉄道への支援が今回の検討対象に含まれるのかは、今後の制度設計を確認する必要があります。
鉄道網を維持するための新たな選択肢となるか
鉄道の維持には、線路や橋梁、トンネル、信号設備などの保守・更新費用がかかります。利用者が少ない路線では、地域の努力や鉄道事業者の経営改善だけで費用を賄うことが難しい場合もあります。
一方で、防衛予算を活用するのであれば、どの路線を対象にするのか、旅客輸送も含むのか、どのような機能を安全保障上必要と判断するのか、一般の交通政策による支援とどう整理するのかといった課題もあります。
また、施設の維持費を支援できたとしても、列車の運行に必要な人件費や車両の維持費、利用者の確保など、鉄道を持続させるための課題がすべて解決するわけではありません。
今回の検討が具体化すれば、鉄道を地域交通としてだけでなく、国全体で維持すべきインフラとして考える動きにつながる可能性があります。
JR北海道の黄線区や函館本線、道南いさりび鉄道にどのような影響があるのか。今後の対象路線や支援内容に注目したいと思います。


