運賃値上げで変わるローカル線への視線? JR西日本社長インタビューから考えたこと

芸備線(西条川) JR西日本

JR西日本の長谷川一明社長が毎日新聞のインタビューに応じ、鉄道事業を取り巻く厳しい経営環境や、利用者にも一定の負担を求めていく必要性などについて語りました。

人口減少や少子高齢化が進む中、鉄道会社を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。コロナ禍による利用者減少からは回復傾向にあるものの、資材価格や人件費の上昇、老朽化した設備の更新、安全対策への投資など、鉄道会社が抱える課題は少なくありません。

鉄道を安全に走らせ続けるためには、線路や橋梁、トンネル、信号設備などの維持管理に多額の費用が必要です。車両の更新やバリアフリー化、ホームドアの整備なども含めれば、その負担は今後さらに大きくなることが予想されます。

利用者としては「できるだけ運賃は上げてほしくない」というのが本音でしょう。しかし、鉄道会社としては安全を維持するために必要な投資を続けなければならず、そのバランスをどう取るかが大きな課題となっています。

JR西日本、5年以内に運賃値上げへ 全面値上げは民営化以降初

毎日新聞ホームページ

2026年4月30日の記者会見でも5年以内の運賃値上げについての発言がありましたので、この発言自体は特に目新しいものではありません。

運賃値上げは「自分事」になる

これまで赤字ローカル線の問題は、沿線自治体や地域住民、鉄道会社の問題として語られることが多くありました。

都市部で鉄道を利用する人にとっては、「地方のローカル線の話」という印象を持っていた人も少なくなかったのではないでしょうか。

しかし、もし運賃改定によって自分自身の負担が増えることになれば、その見方は少し変わるかもしれません。

例えば、通勤や通学で毎日利用する人なら、仮に毎月数百円程度の負担増であっても、年間では決して小さな金額ではありません。

都市部の路線で導入されている「鉄道駅バリアフリー料金」のように自分自身が関係することによる負担増であれば納得できる人も多いと思いますが、そうでないところのための運賃値上げだとどうでしょうか。

今までも赤字ローカル線は、「内部補助」という形で都市部の路線の利益によって支えられてきましたが、利用者側の明確な負担はありませんでした。ところが、運賃値上げということになれば全利用者に影響が及びます。

人は、自分に直接負担が及ぶと、それまであまり関心のなかった問題にも目を向けるようになります。

それは決して珍しいことではなく、ごく自然な心理ではないでしょうか。

「赤字ローカル線を見直せばいい」という声は増えるのか

そこで気になるのが、赤字ローカル線への見方です。

これまで「地域に必要だから残すべき」という意見だった人でも、自分の運賃負担が増えるとなれば、

「利用者の少ない路線を維持し続ける必要があるのだろうか。」

「見直すことで負担を軽くできるのではないか。」

そんな考えを持つ人が出てきても不思議ではありません。

もちろん、それが正しいという話ではありません。

地方のローカル線は、高校生の通学や高齢者の通院、観光振興、災害時の代替交通など、収支だけでは測れない役割を担っています。

だからこそ、単純に黒字・赤字だけで判断できない難しさがあります。

しかし一方で、利用者自身が負担を実感するようになれば、「ローカル線をどう維持していくのか」という議論そのものが、これまでより身近なテーマになる可能性は十分考えられます。

滑川市民アンケートでも見えた「人間心理」

このブログでは先日、富山地方鉄道本線を巡る滑川市民アンケートについて紹介しました。

アンケートでは、「鉄道は必要」と考える人が多数を占める一方で、「税金投入には反対」という回答も少なくありませんでした。

必要だとは思う。

しかし、自分の負担は増えてほしくない。

一見すると矛盾しているようにも見えますが、これは決して滑川市だけの話ではないでしょう。

誰でも、自分の生活に直接影響が及ぶ場面では、理想だけでは判断できないものです。

今回のテーマも、それに近いように感じます。

「ローカル線は必要だ。」

そう考えていた人でも、自分の運賃が上がるとなれば、「本当に今のまま維持するべきなのか」と考え始めるかもしれません。

税金か運賃かという違いはありますが、自分が負担することによって物事の見方が変わるという点では、共通する部分があるように思います。

岡山県内の路線にも無関係ではない

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津山駅(キハ47系とキハ120形)

岡山県内でも、芸備線では再構築協議会で議論が続いています。現在は、芸備線の列車増発実験が終了し、バスの実証実験が行われています。

芸備線以外の路線でも姫新線や津山線、因美線などでも利用促進策が行われ、イベント列車や企画きっぷなど、利用者を増やす取り組みが続いています。また、赤穂線(長船駅~播州赤穂駅)が2024年度から輸送密度2,000未満の区間として輸送密度・営業係数の発表が行われています(2024年度は、輸送密度 1,687 営業係数 646)。

こうした路線の将来を考えるうえでも、利用者の意識がどのように変化していくかは決して無関係ではありません。

もし今後、運賃負担への関心が高まれば、「地域交通をどう守るのか」という議論も、これまで以上に厳しいものになる可能性があります。

運賃値上げで利用者の気持ちはどう変わるのか

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関西圏の主力通勤型車両207系と321系

これまでJR西日本は、都市部で得た利益を地方路線へ回す「内部補助」によって、多くのローカル線を維持してきました。

しかし、利用者から見れば、その負担は目に見えるものではありませんでした。

毎月運賃を支払っていても、「自分がローカル線を支えている」という意識を持つ人は少なかったでしょう。

ところが、運賃値上げという形で負担が見えるようになると、状況は変わるかもしれません。

「この値上げは何のためなのか。」

「都市部で集めた運賃はどこへ使われるのか。」

「赤字ローカル線を維持するためなら納得できるのか。」

これまで一部の鉄道ファンや自治体だけが議論していたテーマに、多くの利用者が関心を持つきっかけになる可能性があります。

それは赤字ローカル線にとって追い風になるのか、それとも逆風になるのか。

現時点では誰にも分かりません。

JR西日本の立場は・・・

JR西日本としても難しい立場です。

ローカル線を維持するにはお金が必要です。しかし、その費用を都市部の利用者へ求めれば、「なぜ自分が負担するのか」という声が出る可能性があります。また、株式会社という立場上株主への説明責任もあり株主への利益の還元を行わなければなりません。

一方で、ローカル線を維持しなければ地域交通は衰退しかねません。

利用者・自治体・JR西日本、それぞれの立場が異なるからこそ、この問題は簡単な答えが見つからないのでしょう。

まとめ これから注目したいこと

今回の毎日新聞のインタビューでは、赤字ローカル線の存廃について直接語られたわけではありません。

しかし、利用者負担というテーマを考えたとき、その影響はローカル線の議論にも及ぶ可能性があります。

人は、自分が負担することになると、それまでとは違った視点で物事を見るようになります。

その変化が「ローカル線は見直すべき」という方向へ向かうのか、それとも「地域交通だからこそ守るべき」という考えを強めるのかは、現時点では分かりません。

ただ一つ言えるのは、運賃という身近な問題は、多くの利用者にとってローカル線問題を「自分事」として考えるきっかけになるかもしれないということです。

今後の議論がどのように変化していくのか、そして岡山県内のローカル線を含め、地域交通の未来がどのような方向へ進んでいくのか、引き続き注目していきたいと思います。

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